癒やしの小児科医と秘密の契約

◇side佐々木

逃げるように病室を飛び出していった心和を、そのまま見送った。ガランと静まり返った病室で、俺はひとり窓の外を眺める。街灯の眩しさで星はあまり見えない。月でも見えたらよかったのに、ここからじゃ見えない方角のようだ。

心和のぬくもりが残っている。彼女に触れた手をぎゅっと握って、そのぬくもりが消えないように反対の手で包んだ。

静かな夜だ。

ここはナオくんがいた病室だけど、もうすっかりナオくんの形跡はない。壁に貼られている、病院の決まりごとと書かれたポスターの端に、ニャンコのシールが貼ってあった。ナオくんが大好きだったキャラクターだ。

ナオくんが助かる可能性は低かった。だけど一日でも長く元気に過ごせるように、最善の治療法を考えた。結果として、ナオくんは当初の見立てより半年も長く生きることができたし、一時退院することもできた。ご両親にもとても感謝された。だから、世間一般的にはよかったと言えるのだろう。

『佐々木先生〜』
『見てこれ! ニャンコ可愛いでしょー』
『先生が治してくれるんだよね?』
『先生との約束守るから、病気治して』
『先生に抱っこしてもらうの好き』

未だ鮮明に思い出される、ナオくんとの思い出。
ふと思い出しては胸が潰れそうになる。

「はあ……」

思ったより大きなため息が出た。
治してあげたかったけど、どうにもできないこともある。頭では分かっているのに、受け入れられない感情が邪魔をする。相当、心に堪えているのがわかる。

だけど、気持ちを切り替えるのは得意だ。

悔しいこと悲しいこと、腹が立つことがあっても、その感情をすっと押し込めて何でもない顔をすることができる。だからそれを、まわりは“優しい”と表現する。それで対人関係が円滑に進むのなら、それでいいと思っている。

でも――。

そんな特技が実は苦しいときもある。
こういった人の死に触れたときだ。