しばらく佐々木先生とシフトが合わなかった。だからか、お互い連絡もせずただ黙々と仕事をこなす日々が続いていた。

かぶる時間帯もあるから姿は見ていたし、少しばかり言葉をかわすことはあったけれど、それだけで。もどかしく思いつつも、そんなささやかな触れ合いが嬉しかったりもする。

女子会で思いの丈を吐き出したおかげか、すっかりとモヤモヤも解消し、子どもたちにニコニコ笑顔を振りまいている佐々木先生を微笑ましく見ることができる。

やっぱり私も佐々木先生のように子どもたちに優しくありたいし、尊敬することに変わりはない。それに、そろそろ先生に「好き」って言いたい。ずっと言えてないから……。

久しぶりの先生と同じ時間帯の仕事で、私は夜勤、先生は当直の日のこと。夜中の見回りのとき、薄暗い廊下をふらりと歩く佐々木先生の姿を見つけた。特に呼び出しがあったわけでもないのに、ふっと病室に入っていく。

「えっ……」

その場所はナオくんが入院していた病室で、しばらく空き部屋になっている。そんな場所にどんな用事があるのだろう。

見回りが終わった後も、佐々木先生がそこから出てきた気配がなくて、気になって病室の前まで行く。そっと扉に手をかけた。

しんと静まり返った病室。
照明も点いていない、暗闇。
ただ、カーテンが開いているから、外の街灯の光りが薄く差し込んでいる。

そんな薄い暗闇の中、ベッドに座って窓の外を眺めている人影。

「……佐々木先生?」

恐る恐る声をかけてみると、人影がゆらりと動いてこちらを向く。

「……なに、してるんですか?」

「ごめんね、驚かせちゃった?」

その声があまりにも小さくて今にも消えてしまいそうで、心配になって側まで行く。

ベッドに座って外をぼんやり眺める佐々木先生は、仕事中の白衣姿だ。薄明かりに照らされた先生の頬がキラキラと光っていて、思わず手を伸ばしてしまった。

しっとりと湿り気のある感触に、はっとなる。