癒やしの小児科医と秘密の契約

「私は患者さんの前では泣かないかな」

「私は患者さんの前で泣いちゃって怒られたことがあるから、その辺は気をつけてる」

桜子さんも千里さんも、先輩なだけあってやっぱり私よりも経験が多い。二人は上手く気持ちに割り切りができているようだけど、私にはまだまだ難しい。

「……でも悲しくって」

思い出すだけでまたぎゅっと胸が潰れそう。こんなメソメソしてちゃダメだとは思うんだけど。どうにも払拭できない。

「泣くのも泣かないのも、どちらも正しい在り方だと思うよ。人の感情はみんな違うのよ。一緒に泣いてほしい家族の方もいるだろうし、泣かないでほしいと思う家族もいるはず。だから正解はないんじゃない? ……って、清島先生の受け売りです」

「杏子さん、良いこと言ったと思ったら、さらっと惚気てきた!」

「でも確かに外科の方がそういう状況は多いでしょうね」

杏子さんが焼けたお肉をみんなのお皿に配ってくれる。そして新しいお肉を網の上に投入。いつの間にか焼肉奉行が杏子さんに代わっていた。「いっぱい食べなー」とお母さんみたいに優しい。ポロッと涙が溢れた。

「悲しくて泣けちゃうのは、心和ちゃんが一生懸命看護してたからだよ」

「そんなに想われて、患者さんは嬉しかったと思うな」

「ぐすっ、……でも、佐々木先生は泣かないんです」

あの日、一滴も涙なんて見せなかった。むしろ何事もなかったかのように仕事をして、いつも通りニコニコしていて……。その姿が、ちょっと怖かった。

「釈迦佐々木なのに?」

「一番に泣きそうな気がするのにね」

「だって、すぐに他の患者さんの前でニコニコ笑うんですよ。だから私、ちょっとショックで」

「なるほど」

「優しさって何だろう……」

うーん、とみなさん首を傾げる。目の前のお肉から脂が落ちて、ジューッといい音を立てながら焼かれていくのをしばし見つめる。

「はっ、お肉!」

杏子さんが慌てて取り上げる。
すっかり桜子さんの手からトングはなくなっていた。