癒やしの小児科医と秘密の契約

「……うっ……ぐすっ……」

ちょっと気を抜くとすぐに涙が出てしまう。見かねたのか、看護師長に「今日はもうこっちで仕事しなさい」と人目につかない奥に追いやられた。

「気持ちは分かるわよ。でもね、患者さんの死にいちいち泣いていたら、看護師なんて務まらないわよ。泣くなら裏で泣いて、そしてすぐに仕事に戻りなさい。患者さんは1人じゃないの」

「……はい」

医療従事者としてはそれが正しいのだろう。だからみんな何事もなかったかのように淡々と仕事をしている。佐々木先生にいたっては、泣くどころか子どもたちに笑顔を振りまいている。

それが、正しい医療従事者の在り方――。

だとしても、私はそんな風に簡単に割り切ることができなかった。必要以上に患者さんに情を持ってはいけない。そんなこと、わかっている。わかっているけれど、頭と心が切り離されているみたいだ。

私は患者さんに寄り添いたい。佐々木先生みたいに優しくありたいと、ずっと思っていた。だからナオくんが亡くなったことにショックを受けて、当然佐々木先生もそうだろうと思った。

だけど佐々木先生は泣かなかった。泣かないどころか、淡々とした割り切った姿。すぐに振りまける笑顔が信じられなかった。佐々木先生の優しさに裏切られたような気がしたのだ。

「優しいって何だろう?」

「患者さんのことを想って泣くことも、一種の優しさだと思うよ」

通りすがりの千里さんが、励ましてくれる。また、ポロッと涙がこぼれて、慌ててハンカチで目元を拭った。

何事もなかったかのように、いつも通り刻々と時間が流れていく。
そんな中、私だけがいつまでも泣いている。
心が晴れない。
嫌な感情で押しつぶされそう。

情けなくて余計に涙が溢れた。
私は看護師に向いてないのかもしれない。