癒やしの小児科医と秘密の契約

まさか、と思った。
そんなはずない、と思った。

カルテは読んで病状を把握していた。一時退院するときも、残された時間は長くないことをちゃんと把握していた。だから、再入院となっていよいよ死期が近いのだと、予想もできていた。

だけど、あまりにも呆気ない。
こんなの、ないよ――。

ベッドの枕元には、ニャンコのぬいぐるみがナオくんを見守るように置いてある。もう、あの小さな手で抱きしめることもない。「ここちゃん取って」と言われることもない。

胸がぎゅっと押しつぶされそう。
私の心だけが取り残されたかのように、淡々と処置が進んでいく。お迎えの車が到着して、外までお見送りに出た。

「本当にお世話になりました。佐々木先生に出会えて、ナオは幸せだったと思います。皆様も、ありがとうございました」

「ナオくんはよく頑張ったと思います。とても偉かったです」

お見送りをするために、佐々木先生の後ろに数人の看護師が並んだ。千里さんが私の背中をポンッと叩く。はっとなって頭を下げた。

ポタッポタッと雫が地面を濡らした。
大粒の涙が止めどなく溢れてきて、止まらない。

「心和ちゃん、戻るよ」

顔を上げると赤い目をした千里さんと目が合う。また、ぶわっと視界が滲んで大粒の涙がポロポロ溢れていく。

「ほら、しっかりしなさい」

千里さんに手を引かれて、小児科へ戻る。先に戻っていた佐々木先生は、何事もなかったかのように子どもたちと笑い合っていた。

佐々木先生は悲しくないのだろうか。あんなにナオくんのことを気にかけて、あんなに一生懸命治療にあたってたのに。とてもじゃないけれど、私はそんなふうに切り替えができない。泣きすぎて目が赤くなってしまっている。

スタッフステーションも、心なしかしんと静まり返っていた。