癒やしの小児科医と秘密の契約

カタブツ……そう言われると、そうかもしれないけれど、でもお試しに付き合おうとか対症療法とか、その辺りはまったくもってカタブツじゃなくて。

でもそれを千里さんには言えない。これは私と佐々木先生の秘密のようなものだから。

「先生がカタブツと言うよりは、私の歯止めがきかなくなっちゃうので」

「歯止め?」

「はい、好きだって言いすぎて嫌われそうなので、自重してます。それに、先生はカタブツというよりはストイックの方があってる気がします」

「なるほど、佐々木のSはストイックのSか」

「ドSのSでもあるかもです。仕事にめちゃくちゃ厳しくて、この前も――って、はっ!」

私の叫びに、千里さんも私の視線の先を追う。カーテンが少しだけ開いていて、隙間から佐々木先生がひょっこり顔を出している。千里さんが「やばっ」と小さく呟いたのが聞こえた。

「佐々木のSはそっと現れるのSです」

「ぶほっ!」

千里さんがお弁当を喉に詰まらせゴホゴホと激しく咳をする。私は口に入れてなくてよかった。危うく吹き出すところだった。

……って違う違う、そうじゃなくて。

「き、聞いてました?」

「佐々木の〜って聞こえたから。入ってよかった?」

佐々木先生はカーテンの隙間に挟まったまま、眉を下げてくすくす笑っている。どうやら完全に聞かれていたようだ。別に悪口を言っていたわけではないけれど、ちょっと気まずい。

「あ、あー、じゃあ私、ご飯食べ終わったから先行くわ」

「えっ、あっ、千里さん?!」

すっかり空になったお弁当のパックとお茶をささっと片付けて、千里さんは「ごゆっくり〜」と言い残してスタコラ出ていった。

絶対逃げた。
私をオトリにして逃げたよ、先輩は!

私も逃げたいくらいの気持ちなのに、お弁当がまだ半分以上も残っている。逃げられない。

「隣いい?」

「……ど、どうぞ」

拒否権なんてないような……。
佐々木先生が隣に座ってくれて嬉しいようなそうでもないような。