癒やしの小児科医と秘密の契約

ナオくんが計画通り一時退院をして、はや一ヶ月。本当に嬉しそうな顔をして、「バイバーイ」と元気よく手を振って帰って行った姿が今でも思い出される。

ちょっぴり寂しいけれど、無事に退院できてよかった。元気になって退院していく姿を見ると、胸がじんと痺れる。心の底からよかったなと思い、大きなやりがいに包まれるのだ。

患者さんはナオくんだけじゃない。彩芽ちゃんも、計画通り順調に経過している。小児科には毎日たくさんの子どもたちが診察に訪れる。軽度のものから重度のものまで様々だ。そんな子どもたちが元気になって帰って行く姿を見ることが、なによりも嬉しい。

「本当は病院なんて来なくていいくらい、みんな健康でいてほしい」

「みんなそう思ってるよ」

「ですよねー」

「私たちは暇だって思えるくらいが丁度いいのよ」

休憩室で千里さんとお弁当を頬張りながら、ダラダラと過ごす。最近の小児科は落ち着いていて、こうして千里さんと一緒に休憩することも多い。

今日は杏子さんのところで日替わり弁当を買った。おかずに酢豚がたっぷり入っていて、さらに白米の上には焼鮭がのっている。お得感満載でご飯が進む。

「ねえ」

「はい」

「佐々木先生とどうなったの?」

「えっ、ゲホッ、ゴホッ」

酢豚の酸味が喉に絡まる。慌ててお茶で流し込んだ。

「ど、どうって……」

「だって新年会で告白して、それからニャンココラボカフェのデートしたんでしょ?」

「そ、そうなんですけど」

「あれ以来、特に進展してるように見えなくてさ」

「あうう……」

千里さんはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら、お弁当を食べ進める。「心和ちゃんの話もおかずにちょうだい」なんて完全に興味津々だ。

「……嫌われてはないと思いますけど、未だに一方通行な片想いのような。私だけが好きだ好きだとしつこく伝えてます」

「心和ちゃん、積極的ね。でも仕事中はあんまり話してる印象ないけど」

「そこは、けじめをつけてと注意されてまして」

「えっ、佐々木先生って意外とカタブツ?」