癒やしの小児科医と秘密の契約

ナオくんの検温も終わり、次は彩芽ちゃんだ。彩芽ちゃんは小学三年生。喘息がひどくて定期的に入退院を繰り返している。

「ここちゃん、昨日のカワウソ見た?」

「カワウソ?」

「テレビで特集やるって言ってたじゃん」

「あー! 忘れてた、ごめーん!」

彩芽ちゃんは大のカワウソ好き。病室はカワウソグッズで溢れている。カワウソがいかに可愛いのか、いつもその魅力をふんだんにレクチャーしてくれるのだ。

「ここちゃんにお勧めYouTubeあるからさ〜、見てこれ」

「なになに〜」

彩芽ちゃんのタブレットを覗き込みながら、検温も同時に行う。体温計がピピッと鳴るのと、カワウソが穴から出てくるタイミングがドンピシャすぎて、可笑しくて二人で顔を見合わせて爆笑だ。

「何を盛り上がってるの?」

「あ、佐々木先生! 佐々木先生も見てみて〜!」

彩芽ちゃんは佐々木先生を手招きする。先生は私の後ろからタブレットを覗きこんで、「へー、可愛いね」と彩芽ちゃんに笑いかける。

ち、近い。佐々木先生が近いし、耳元で「可愛い」とか言わないでほしい。カワウソのことだってわかってるけど、心臓がドキッと反応してしまう。

落ち着け私。今は仕事中、仕事中、けじめが大事。平常心、平常心、はい、大きく深呼吸して。スーハースーハー。

「先生、これも見て!」

「おっと」

彩芽ちゃんが佐々木先生の手を引っ張るので、先生の体が私の肩に触れた。一際ドッキンと大きく弾む心臓。至近距離で先生とバチッと目が合う。

せっかく落ち着けた心がまたザワザワ騒ぎ出す。
ドキンドキンとうるさい。静まれ私の心臓。

だけどその前に、佐々木先生が一歩下がって私と距離を取った。けじめをモットーにしている先生にとってはそれが当たり前なのだろうけど、ちょっとばかり残念な気持ちになる私もいて……。

ってダメダメ。妄想禁止。

「どうしたの、ここちゃん?」

「あっ、ううん。じゃあ彩芽ちゃん、また来るね」

「うん、バイバーイ」

彩芽ちゃんに手を振って、処置カートと共に早急に病室を出た。これ以上ここにいるとやばい。佐々木先生を意識してしまって仕事にならない。

気合いを入れるため、むにっと頬をつねる。

「ちょっと変顔やめてよ〜」

通りすがりの千里さんにツッコまれた。
変顔をしたつもりはなかったんだけど。