癒やしの小児科医と秘密の契約

「川島さーん、そろそろ報告書できた?」

看護師長が様子を見に来て、私の大泣きする姿に「ええっ?!」と驚いた声を上げる。

「ちょ、えっ? もしかして佐々木先生が泣かせたんです?」

「うん、ちょっと針刺し事故について厳しく指導しすぎちゃったんだ。だからもうこの話は終わりね。はい、これ報告書。ごめんね、川島さん。次からは気をつけようね」

佐々木先生は報告書をペラリと取り上げて、看護師長に渡してくれる。先生の優しさで、胸が張り裂けそうに痛い。

「ちょっと佐々木先生、泣かせた責任取ってくださいよ」

「師長は厳しいなぁ。わかってますよ」

「ほんっとにもうっ。川島さん、報告書不備なさそうだから、提出しておくわね。落ち着いたら、今日はもう上がりなさいね」

「……はい。……すみません」

ずびびっと鼻をすすると、佐々木先生がくすりと笑いながらハンカチを差し出してくれた。そして大きくて温かい手が、私の背中をそっと撫でる。偉大な優しさに溺れてしまいそう。

「大丈夫?」

「……先生」

「ん?」

「……ありがとうございます」

「うん」

「あと……」

「?」

「…………すき」

「こらこら、仕事中だよ」

また叱られた。
でも――

「今のは、同じ医療従事者としての尊敬を込めた言葉です。……でも、ごめんなさい」

同じ『好き』でも意味が違う。好きにはいろいろな意味があるんだということを、実感した。そんな『好き』を全部ひっくるめて、やっぱり私は佐々木先生のことが大好きだ。

「まったく、もう」

先生の長い指が伸びてきて、私の目尻をすっと一拭いする。優しい触れ方に、胸がきゅんとなる。

「元気になったみたいでよかった」

そう言って屈託もなく笑うものだから、私も泣きながら笑い返すことができた。いつの間にか心がすっと軽くなっていた。