「誰にでも優しいってことは、もし恋人になれてもヤキモキしない?」

「優しくて一緒にいると落ち着くけど、それだけなんだって聞くよ」

「それだけとは?」

「うーん、刺激がない、みたいな?」

「刺激、ですか」

杏子さんと清島先生みたいなケンカのことかなと想像したのに――。

「エロさがないわよね」

「ゲホッ!」

あけすけな物言いに今度は私がビールを吹き出す。

「え、エロ、エロって……!」

「心和ちゃん、エロを連呼しないの」

「だって桜子さんがっ」

「ほら、色気的な? 佐々木先生優しすぎて、そういうの興味なさそう」

「想像するのやめてください!」

「清島先生は肉食っぽい」

「ちょ、飛び火! やめてー!」

佐々木先生だけでなく、清島先生のことまでネタにされ、私と杏子さんの悲鳴が個室に響く。桜子さんと千里さんは「どうせ私たちはお一人様だものね」と意気投合している。

私だってまだ片思い中のお一人様なんだから、ラブラブ一直線な杏子さんとはカテゴリーが違うのだけど。

「佐々木先生はニャンコ好きらしいよ」

「ニャンコ?」

「ほら、これ」

杏子さんが見せてくれたのは、杏子さんが愛用している可愛いネコのキャラクターが付いているボールペンだ。グッズだけじゃなく、アニメにも映画にもなっている大人気キャラクター、ニャンコ。

「今度ニャンコ展やるらしいから、誘ってみなよ」

「ニャンコにつられて来てくれるかもよ?」

「そうですね。とりあえずニャンコを履修するところから始めます」

先生が好きなものは覚えないと会話のキャッチボールすらできない。今日帰ったらさっそくニャンコのアニメをチェックしよう。

「じゃあみんな、来年の抱負でも言いますか」

「はいっ! 私は佐々木先生を振り向かせてみせます!」

お酒の勢いもあってか、私は高らかに宣言していた。いつまでも片思いなんてもどかしすぎる。今日みんなに佐々木先生が好きだって話したことで、私の中の佐々木先生熱がいつも以上に上がりまくっている。

「おお〜、心和ちゃんやる気だねぇ」

やる気マックス。あと数日で年も明けるし、心機一転、恋も仕事も頑張るんだ。

「みんな来年も楽しくいきましょー!」

ジョッキをガツンとぶつけてビールを一気飲み。
来年は少しでも佐々木先生と仲良くなれるといいな。

そんな淡い期待を抱いていた年末。
まさか年明け早々、あんな大イベントが私の身に起こるなんて、このときは想像すらしていなかった。