佐々木先生は普段ニコニコしていて、見た目からも優しさが滲み出ている。けれどひとたびデスクに向かうと、普段の穏やかさが鳴りを潜め、ものすごく真剣な顔をする。

勉強熱心な先生も大好きだ。患者さんの症状に最も適した治療法は何か、その患者さんに合っているのかどうかなど、複合的に考えているのだと思う。患者さんにいつも親身に寄り添っている姿はみんなのお手本。

そんな先生の姿を目の当たりにして、私はすっとその場を去った。先生の熱心さは見習うべきところがたくさんあって、いつも感化される。私も、私にできる精一杯の仕事をしようと改めて再認識させられるのだ。

そうやって真面目に働くこと早数日。その日は私が夜勤で、佐々木先生は当直の日。シフトが重なって喜んだのも束の間、お互いにちょっと忙しくて、先生と話すどころか姿を見ることさえままならなかった。

院内にいるときはけじめをつけることと約束しているので、それで問題ないのだけど、やっぱり姿が見られたほうが私は嬉しい。

休憩中に食べたマシュマロが美味しくて、『休憩にどうぞ』と付箋を貼って佐々木先生のデスクに置いておいた。

夜勤明けで帰るときも先生のデスクを覗いたけれど、結局タイミングが合わず、何だかちょっぴり残念な気持ちになりながら病院を出る。

「ま、そんな日もあるよね」

一人ぶつぶつと呟きながら、駅までの道のりを歩く。冬の朝は寒くて凍えそう。冷たい空気が肌を刺す。吐く息も白い。

駅前のコンビニの前に『肉まん』と書かれた幟が風に揺れた。夜勤明けにその文字は毒だ。誘惑に勝手に体が(いざな)われていく。

と、ふいにスマホが鳴り始め、肉まんを前にしてお預けをくらった。けれど着信画面を見て、スマホを落としそうになる。

「せ、先生?!」

わたわたとしながら慌てて通話ボタンをタップした。