「あはは」

突然佐々木先生が笑い出すので、何事かとキョトンとする。

「マグカップは無事ですって、そうきたか〜」

「えっ、割れなくてよかったなって思って。ていうか、なんで思い出し笑いしてるんですか」

「さっきの川島さんのドヤ顔が忘れられない。あはは」

「ちょっと、やだっ。頭の中から消してください」

カアアッと顔が熱くなる。ドヤ顔って、私ったらどんな顔をしていたんだろう。

「じゃあその守られたマグカップを買おうかな。ご利益ありそうだよね」

「私の全パワー注ぎ込んでおいたので」

「最高じゃん」

ニコッと笑う佐々木先生こそが、最高だと思う。もう、好きしかない。なんでこの人、こんなに素敵なんだろう。さっきの子どもに対する接し方とかも本当に慈悲深くて、お釈迦様みたいだった。

でもそんな姿を見るたびに、やっぱり誰にでも優しくて平等なんだと再認識してしまう。私に対する優しさも、それと同じなんだろうな。

『誰にでも優しいってことは、もし恋人になれてもヤキモキしない?』

まさにその通りで。先生を知れば知るほど、私だけに特別な優しさがほしいって思ってしまう。
それはとても欲張りで贅沢な願い事なのだろうけど。

「先生」

「ん?」

「……手、繋いでもいいですか?」

「いいよ」

おずおずと差し出した手を、佐々木先生は躊躇いもなくきゅっと握ってくれる。温かいぬくもりに胸がきゅんとなって、ドキドキが増していく。

私は先生とのちょっとの触れ合いで心臓が破裂しそうなくらいドキドキするのに、先生は顔色一つ変えずいつも穏やかな顔をしている。

私も先生にドキドキしてもらいたいのに、まったくもって興味がなさそうだ。先生がドキドキすることって、どんなことだろう。先生はどんな女性がタイプなんだろう。

考えれば考えるほど、ドツボにはまっていくような気がする。
私にもっと魅力があったらよかったのに。