癒やしの小児科医と秘密の契約

「わあああああ」

「えっ、何事?」

「先生、これってデート? デートですよね?」

「そうだね、そういうことになるね」

「ひーん! 先生好きすぎる!」

嬉しすぎて抱きつきたい。
めちゃくちゃ抱きつきたいっ!
でも我慢我慢。自重しろ、私。

「何してるの?」

「自分の心と戦っておりまして」

ほっぺたをつねって必死に心を抑える。両頬をつねっていた私の両手を、佐々木先生はすっと取り外した。そして先生の大きくて温かい手が頬を包む。

「そんなことしたら赤くなるよ。可愛い顔が台無しだ」

「へっ、可愛い……?」

「可愛いよ」

先生の両手に包まれたまま、頭のてっぺんから湯気が出そうなほどに顔が熱くなった。

「顔赤くなってるね」

「せ、先生のせいですぅ」

「そっか~。可愛い可愛い」

「あひゃ~」

変な悲鳴を上げた私は恥ずかしさが最高潮に達してすっくと立ちあがる。先生の言う「可愛い」は、子どもたちに向ける「可愛い」と同じ意味かもしれない。それでも心を鷲掴みにされるくらいにドッキュンドッキュンして、冷静ではいられなくなった。

「と、とにかく、ニャンココラボカフェ、よろしくお願いします。今日もお疲れさまでした!」

ペコっとお辞儀をしてから逃げるように去ろうとしたのに、ぐっと腕を掴まれて前のめりになる。

「何で逃げるの?」

「逃げてるわけじゃなくて……その……」

「恥ずかしがってるの?」

「ああああ……。そうですよぅ。私、恋愛偏差値低いんですから、からかわないでください。もう心臓がかつてないほど暴れてて、死にそうです」

「救急外来行く?」

「救急外来行くくらいなら先生が診てくださいよ」

「ああ、確かにそうだね。川島さん賢いなぁ」

佐々木先生は余裕の表情でくすくす笑った。
私だけがドキドキして先生に翻弄されている。私が先生のことを翻弄したいのに、こんなんじゃ本末転倒だ。

佐々木先生の手が私の首に触れる。
何事かとビクッと肩が揺れた。