「佐々木先生って本当に優しくて……」

「うん、それは知ってる。院内一優しいって評判だもの」

そう、佐々木先生は誰から見ても優しい人。同僚も患者さんも「佐々木先生は優しい」と口を揃えて言うくらい、優しさに溢れたお人なのだ。

「私は心の中で釈迦佐々木って呼んでるよ」

「え、杏子さん何ですか、しゃかって」

「お釈迦様みたいな優しさ」

杏子さんの説明に、桜子さんと千里さんは「えー?」と納得がいかない様子。でも私は杏子さんに激しく同意だ。

「わかります! 本当にお釈迦様の様で」

「心和ちゃんわかってくれた」

「お釈迦様エピソード持ってますもん」

私はぐっと拳を握る。佐々木先生の優しさは周知の事実。その優しさに騙されたり絆されたりしちゃダメだと先輩にも言われていた。それは佐々木先生の優しさが嘘だとかそういう意味ではなく、本当に誰にでも平等に優しいから、その優しさは特別なものじゃないという意味だ。

だから私も優しさに勘違いなんてしていない。優しい先生がいるなんて、良い職場環境だくらいにしか思っていなかった。

そんな私が佐々木先生を好きになったきっかけは、ある夜勤の日、寝つけない子どもを優しく抱きしめてあげているのを目撃してしまったからだ。

それはもう優しさの領域を超えていて、まさにお釈迦様。だけど私はその優しさを好きになったんじゃない。同じ医療従事者として、患者さんにそこまで親身に寄り添える姿に感動して尊敬の念を抱いたからだ。