癒やしの小児科医と秘密の契約

少し気分が落ち着いたのか、ナオくんはニャンコのことについていろいろと話をしてくれた。

「ニャンコはね、家で飼ってる猫に似てる」

「そっかー」

「俺のこと忘れちゃったかも」

「そんなことないよ。猫って人の顔とかニオイを覚えてるんだよ」

「いつ帰れる?」

ドキッと心臓がビクつく。ナオくんの症状は決して良いとは言えず、いつ退院できるかなんてわからない。下手なことも言えないし、こういうとき、本当に返答に困る。

「じゃあ、佐々木先生来たら聞いてみよっか」

心の中で佐々木先生に押し付けてごめんなさいと思いつつ、これが私の最善の答えだった。患者さんとの会話って、難しい。

トントンとノックがされて扉が開いた。

「ナオくん、調子はどう?」

穏やかな表情を携えて、佐々木先生と親御さんが入ってくる。私はペコリとお辞儀をして後ろに下がった。

佐々木先生がこちらを見るので、ちょっと前に吐き止めの点滴を入れたことと、症状は落ち着いている旨を報告する。

「ナオくん、頑張って偉い」

「だって先生と約束したもん」

「そうだね。約束守れるなんてかっこいいね」

佐々木先生は腰を落として、寝ているナオくんと同じ目線で話をする。ナオくんは私と話すときとはうってかわって、とても嬉しそうだ。表情が豊かになっている。それだけ佐々木先生への信頼が厚いのだろう。

ちょっと悔しいけれど、やっぱり佐々木先生は偉大なのだと思う。

「じゃあ、ちょっとだけお話しても大丈夫かな? お父さんとお母さんも一緒に」

「いいけど」

佐々木先生がチラリとこちらに視線をやるので、私は慌てて処置カートと共に病室を出た。私はお呼びではないらしい。そりゃそうか。

ナオくんの病室の扉には誰が作ったのか、ニャンコに出てくるキャラクターたちが印刷されて、マグネットで貼り付けられている。

ニャンコを履修した身としては、全部可愛く見えてくるから不思議だ。