癒やしの小児科医と秘密の契約

午後からは病棟でナオくんの担当だ。

ナオくんの心が不安定なのは、午前中に抗がん剤治療を行うことが決まっていたからだ。ずっと嫌だ嫌だと言っていて日程が延びていたのを、佐々木先生と相談してようやく話がまとまったのだ。

頑張ったものの副作用が出たようで、吐き止めの点滴を入れるべく病室を訪れたのだけど――。

「ねえ、それ痛くないよね? 痛いの嫌だ」

しんどそうに体を丸めながら、ナオくんが弱々しく息を吐く。相当しんどいのだろうと思うけれど、不安を与えないように「大丈夫だよ」と明るく返事をしてささっと処置をする。

「ねえ、今日佐々木先生いないの?」

「いるけど、今はちょっと忙しいかな」

「後で来てって言っといて」

「うん、伝えておくね。もうすぐお母さんも来るよ」

「うん」

ナオくんは気怠そうに返事をした。

佐々木先生は、ナオくんのМRIの結果と今後の治療法について、親御さんに説明中だ。それが終わったら一度声をかけよう。でもきっと、私が声をかけなくても、佐々木先生はナオくんの様子を見に来ると思うけど。

「ここちゃん」

「なあに?」

「あれ取って」

ナオくんの指さす先は、胸に抱えられるくらい大きなニャンコのぬいぐるみだ。いつも窓際のテーブルの上に置いてある。それをナオくんに渡せば、ナオくんはニャンコのぬいぐるみを大事そうに胸にぎゅっと抱えた。

「ニャンコ好きだねぇ」

「好き」

「じゃあ佐々木先生と一緒だ。佐々木先生もニャンコ好きだもんね?」

「うん。ニャンコ仲間。いつもニャンコの話してる」

「そっかー」

ニャンコと佐々木先生の話題を振ると、ナオくんは少しだけ顔が緩む。ナオくんは佐々木先生が大好きで、佐々木先生以外の先生の話は聞く耳持たない。まだ6歳なだけあって、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと遠慮がない。佐々木先生とはニャンコ繋がりで懐いている部分もあるのかもしれない。

ちなみに私のことはここちゃんと呼ぶ。名前がココアに似てるから、最初はココアと呼ばれていたけれど、親御さんに是正されてここちゃんに落ち着いた。