癒やしの小児科医と秘密の契約

「あ、そうだ」

「は、はいっ!」

妄想しながらこっそり眺めていたのがバレたのかと思い、ビクッと肩が揺れたけれど。

「ナオくんの心が不安定みたいだから、ちょっと気にして見ておいてくれる?」

「はい、わかりました」

ナオくんとは、小児癌で長期入院中の患者さんのことだ。ナオくんは心もちょっと不安定で、佐々木先生がいつも細やかにケアしてあげている。

どうやら佐々木先生の頭の中は患者さんのことでいっぱいみたいだ。そこに少しでも私のことを考えてくれたらいいのに……などと邪な考えが浮かんだけれど、慌ててブンブンと頭を振った。始業前とはいえ、もうナース服に着替えたのだから、私の頭もちゃんと切り替えないと。

バッチンと両頬を叩く。

「どうしたの?」

「いえ、今日も頑張ろうと気合いを入れただけです」

「いい心がけだね」

ニコッと笑顔と共に褒められたので、私のやる気マックス。もう、その笑顔がもらえただけで今日一日乗り切れる気がする。

そんな気持ちでバリバリ仕事をこなし、気づけばお昼休みに突入していた。休憩室に入り、やっと一息つく。そういえば佐々木先生とは朝に顔を合わせたきり。気が抜けるとすぐに先生のことを考えてしまう。もう、どれだけ先生のことが好きなんだろう。

シャッと休憩室のカーテンが開いた。

気が抜けた顔でそちらを見やると、朝一で会った時と何ら変わらない、爽やかな顔をした佐々木先生と目が合う。午前中、先生も忙しかっただろうに、疲れなんて微塵も感じさせない爽やかさ。もう、後光が差していて眩しい。

「はわ~」

あまりの神々しさに浄化されそう。

「どうしたの?」

「先生、好きです」

思わず口をついて出る。
けれど佐々木先生は一瞬面くらった顔をしたものの、真面目な顔をして私を見据えた。

「川島さん、仕事中だよ」

「私は休憩中ですもん。先生も今から休憩ですよね?」

「それは屁理屈という」

甘さなど微塵もなく本気のトーンで叱られてしまったので、私はしゅんと肩を落とす。佐々木先生が正しい。けじめはつけることって言われているのだから。

「……ごめんなさい」

素直に謝ると、先生の手がこちらに伸びてくる。えっと思った瞬間、頭をぽんぽんと優しく撫でられた。先生の優しさに胸がキュンと苦しくなって、自分の浅はかさに鼻の奥がツンとした。

私は、ちゃんと先生に見合う人になりたい。