癒やしの小児科医と秘密の契約

「したかなあ?」

「え、し、したような、してないような。もしかして私の妄想ですか?」

ダラダラと背中に流れる汗が止まらない。
私、何かやらかしちゃったかもしれない。

「そっか、そこから覚えてないんだ」

佐々木先生はくすくす笑う。いつもだったら先生が笑ってくれるのはとても嬉しいことなのに、今日は全然嬉しくない。むしろ先生の笑顔が怖い。

「ごめんなさい。先生、私、何かしましたか?」

「んー、俺が何かしてたらどうする?」

「えっ?!」

俺が何かって、もしかして……もしかして……体の関係……とか、あったりする?
慌てて着ている服を確認するも、昨晩から何も変わっていないように思う。体に異変とかもない、と思う。思うけど、でも、わからない。もしかしてってこともあるし。

「あ、あの……?」

「覚えてないならいいよ」

そんなもったいぶって言うなんて、先生はずるい。一人だけ余裕の笑みを浮かべている。そりゃ、もとはと言えば飲みすぎて酔っぱらった私が悪いんだけども。ああ、覚えていない自分が憎い。

「先生、教えてください」

「んー?」

のらりくらりかわされ、私の気持ちが限界に近づいた。ぐわっと気持ちが高ぶる。込み上げてくる感情が鼻の奥をツンとさせる。

「先生、嫌わないでください」

「え? 嫌ってないよ」

「私、先生のこと好きです! だから……だから……もし、シてても平気です!」

「ははっ、積極的だなぁ。川島さんは俺のどこが好きなの?」

ドキッと心臓が揺れる。佐々木先生の好きなところはいっぱいあるけれど、上手く言葉にするのが難しく「えっと……」と思わず言い淀んでしまう。

焦って変な答えになっても嫌だと思って、うーんうーんと頭を悩ますけれど、私のポンコツ単純脳細胞は「や、優しいところ」とありきたりな答えしか導き出せなかった。