癒やしの小児科医と秘密の契約

もぞもぞと毛布をたくし上げる。あったかいお布団に包まれて幸せだ。しかもなんだかいい香りがする。

「……はっ!」

ガバッと身を起こす。
知らない景色、知らないベッドの上、知らない香り。

「いやいや、知ってる」

頭をブンブンと振る。
覚醒した頭は徐々に昨晩の記憶を思い起こさせる。

そうだ、ここは佐々木先生のお家だ。キョロキョロと見回してみるも、ベッド以外には大きな本棚とデスクといったシンプルなお部屋。佐々木先生の姿はない。

そろりと部屋を出ると、佐々木先生がソファに座ってタブレットを操作していた。ニュースでも読んでいるのだろうか。

「あ、おはよう」

目が合うと、ニコッと爽やかな笑みを浮かべる。あまりの爽やかさに、佐々木先生の背後から後光が差しているようで眩しい。この光に当てられると、私なんて灰になりそうだ。

直視できなくて、佐々木先生の足もとでガバッと土下座する。

「佐々木先生、あの……昨晩は本当に何と申し上げていいのか……ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

「別に謝らなくてもいいよ。ほら、顔上げて」

先生はわざわざソファから下りて、私と同じ床に膝をつく。いつも目線を同じ高さで合わせようとしてくれる優しい佐々木先生。ますます頭が上がらない。

「昨日のこと、覚えてるの?」

「お、覚えてます」

「どこまで覚えてる?」

「どこまでって……」

ダラダラと背中に冷たい汗が流れる。覚えているけれど、これが正しい記憶かはわからない。なにせかなり酔っぱらっていたからだ。

「新年会したのは覚えてる?」

「覚えてます。そこで先生に告白しました」

「うん、それから?」

「えっと……先生に送ってもらって……でも酔っぱらってたので帰れなくて先生のお家に連れてきてもらって……」

「うん、それから?」

ニコッと佐々木先生は首を傾げる。
それからって、それからって――!

「先生と……キス……した?」