「ほら、心和ちゃんいっぱい食べなー」

「あ、はい」

「心和ちゃんが悩んでるのは部長先生のせいなんだからさ、慰謝料もらいなよ」

「慰謝料?」

「そうそう、給料上げてもらいなよ」

「いや、佐々木先生からも慰謝料もらいたいわよね。なんなら莉々花ちゃん? その子からも迷惑料もらいたいくらい」

「うちの心和に何するんだってね」

「もう〜、皆さん私の親ですか〜」

明るい笑い声に、少しずつ心が浄化されていく。私の悩みなんてちっぽけなものなんだって、教えてくれてるみたい。

そうだよね、俊介さんの彼女は私なんだから自信持たなくちゃ。そして俊介さんを信じなくちゃ。

「不満は溜め込まずに、口にしたほうがいいよ。ま、ケンカにならない程度にね」

「佐々木先生には何言ってもケンカにならなさそう」

「釈迦佐々木だもんね〜」

「そうですね、ちゃんと自分の気持ち伝えます」

「ていうかさ、莉々花ちゃん送ってっただけなんでしょ? 佐々木先生ここに呼んだら?」

「私らが説教してやろう」

「うーん、先生疲れてるから」

「でもまだご飯食べてないよ、きっと」

連絡をしようか迷いつつカバンからスマホを出そうとしたのだけど、スマホが入っていないことに気づいた。記憶を辿ってみるけれど、病院を出てからここまでスマホを触っていない。ロッカールームで触った記憶があるから、きっと忘れてきてしまったのだろう。

「ごめんなさい、病院にスマホ忘れたみたいで。取ってきます。すぐ戻りますぅ」

「えっ、一人で大丈夫?」

「近いので大丈夫でーす」

「気をつけて行ってきなねー」

「はーい」

外に出ると柔らかな風が吹き抜けた。街路樹の桜はとっくに散ってしまって、青々とした葉が風に揺れる。俊介さんとお花見をしたいと思いつつ、結局出来ずじまいだ。また来年まで待たなくてはいけない。来年も一緒にいられるだろうか。