「あの、杏子さんはどう思いますか？」

「ん、私？」

「もし清島先生が、女性を家まで送ったら」

「んー、嫌だけど、誇らしいかもしれない。優しいなーって」

「その子が先生のことを好きでも？」

「えっ、そうなると話は変わってくるような……」

「なになに、恋のライバルなの？」

「ライバルっていうか、莉々花ちゃんは私と佐々木先生がお付き合いしているのを知っているのに、佐々木先生と結婚の約束をしたって言ってて……。取られちゃいそうで怖いんです」

考えただけで胸がキュッと締めつけられる。弱い自分に負けそうになって鼻の奥がツンとする。なのに、杏子さんと桜子さんは目をパチクリさせてキョトンとした。

「ごめん、整理させて。なんか大前提が間違ってる気がする」

「私も、認識不足を感じているわ」

「？」

「心和ちゃん、佐々木先生と付き合ってるの？」

「はい」

「いつの間に？！」

「ちょっと、報告受けてないんですけど！」

「えっ？　あっ、あれ？　千里さん？」

「私は言ってないよ。だって内緒にしてって言ってたじゃん」

「あわわ……」

皆さんがニヤニヤとこちらを見る。突然恥ずかしくなって頬が熱くなった。慌てて両手で頬を押さえるも、皆さんのニヤニヤは止まらない。

「心和ちゃん照れてる」

「ほんっとにもう、可愛いんだから」

「ひゃー、やめてくださいぃ！」

「こんなに可愛いんだもの、何の心配もないでしょ」

「ないない」

「だいたいさぁ、すべての元凶は部長先生じゃない？」

「それですよ。あの人、ねるとん始まったとか言って楽しんでたんだから」

「ねるとんって何？」

「桜子さん、昔のマッチングアプリだと思ってください」

もう、私そっちのけで三人で盛り上がっている。ジュウジュウ焼けるお肉の管理はやっぱり杏子さん主導に代わっていて、桜子さんの手からトングは消えている。