癒やしの小児科医と秘密の契約

ふいに、「川島(・・)さん」と俊介さんに呼ばれる。

「なんでしょうか、佐々木(・・・)先生」

お互い名字呼び。ちょっぴりもどかしいけれど、それが私たちのけじめの付け方。公私混同はしないんだから。大人になれ、私。

「トマトジュースのお勧めはカゴメの食塩無添加タイプだな〜」

「だって自販機にこれしか売ってなかったんですもん」

「下の売店になら売ってたよ。パックのだけど。今度見つけたら買ってきてあげるね」

「えっ、本当ですか? やったぁ」

「えー、川島さんだけズルぃ〜」

「小谷さんもトマトジュースいる?」

「トマトジュースは嫌いですもん」

「それは残念だなぁ」

「美味しいのに」

「美味しいよね」

俊介さんと、うんうんと頷く。莉々花ちゃんはものすごく残念そうな顔をした。なんだろう、ちょっぴり優越感。そんな小者な私の態度を見て、千里さんが陰でクスクス肩を震わせていた。

……はいはい、大人になりますよぅ。

「さ、莉々花ちゃん、検温行くよー」

「はあい」

隙あらば俊介さんに絡みに行く莉々花ちゃんを引き剥がすように、彼女を引き連れて子どもたちの病室を回った。

「あーあー、俊ちゃん先生って呼びたかったのになぁ」

「莉々花ちゃん、けじめはつけましょう」

「真面目ですね川島さんは」

「当たり前でしょう、今は仕事中だよ」

ビシッと先輩らしく注意したはずだったのに……。

「ここちゃーん、昨日のピュアリン見たー?」

「見た見た、ピュアリンブルーが超可愛かった!」

千奈ちゃんの病室で、千奈ちゃんと昨日のピュアリンについて熱く語る私。さっそく莉々花ちゃんに「川島さん、検温は?」とツッコまれた。

む……確かにそう。ピュアリンで盛り上がっている場合ではない。

「あ、スケッチブックだ。千奈ちゃん、絵を描くの?」

「ピュアリン描いてるの。ほら見て」

「わあ、上手!」

「まだ練習中なんだけどね。ここちゃんも描いてよ」

「えっ、私?」

ずずいっとスケッチブックとシャープペンシルを渡される。描くのはいいけど、前に千里さんに「画伯」だと言われたことがあるので、やめておいたほうがいい気がする。