癒やしの小児科医と秘密の契約

「水飲む?」

「はい、すみません」

佐々木先生のお家に来られて嬉しいのに、頭がぼーっとして何も働かない。瞼がとっても重い。

「ごめんね、俺のせいで飲みすぎちゃったんだよね?」

「先生のせいじゃないです。自分の心が弱いから……。迷惑かけてすみません」

「いいよ。アルコール抜けるまで寝ていきな。こんな状態で一人で帰すほど、薄情じゃないよ。俺のベッドで申し訳ないけど」

「先生のベッド……?」

言われてみれば、今座っているのはベッドの上だ。あれ、いつの間にここに来たんだろう? でも先生のベッド使うなんて、そんな嬉しいこと……ああ、じゃなくて、そんな申し訳ないことできない。

早くお断りしなくちゃと思うのに、私のお尻は瞬間接着剤でくっついてしまったのではないかと思うほど、動かない。飲みすぎてぼんやりしているのと、『佐々木先生のベッド』というパワーアイテムが、私の中から『遠慮』という感情を消し去った。

「じゃあおやすみ。俺は隣の部屋にいるから」

立ち上がって去ってしまう佐々木先生の袖をぐっと掴む。不思議そうに振り向いた先生は、腰を落として私と目線を同じ高さに合わせた。いつも小児科で子どもたちに話しかけるのと同じスタイルだ。

「どうしたの?」

「行っちゃうんですか?」

「隣の部屋にね」

「先生と一緒にいたい」

何を血迷ったか、この期に及んでまだ私は佐々木先生に迷惑をかけようとしている。自重しなくちゃと頭では分かっている。だけど常軌を逸した私の単純脳細胞は、本能のまま口走っていた。

「よく考えて。俺は男だよ。一緒にいたら何するかわからないよ」

「先生になら何されてもいい」

「またそういう事を言う」

「先生は私のこと興味ないかもしれないけど、私は先生のことが大好きなので、何でもどんとこいです」

「どんとこいって、まったく……」