黒百合の女帝

優日side

 「いい加減、彼女のことは忘れて下さい。」

突然、ミヤビがそんなことを言い出した。

場所は嶺春倉庫、午前一時半前。

コーヒーを淹れている最中、それは起きた。

目が点になる俺に、彼は呆れた表情を見せる。

 「ユリさんが去って一ヶ月半、あなたの異変に気付かなかったとでも?」

問題集から顔を上げず、淡々と語るミヤビ。

彼が説いている難問は、某有名大学の過去問だ。

冷静な彼とは対照的に、思わず顔が引き攣る。

 「忘れたに決まってるだろ。俺はそこまで未練がましくない。言い掛かりは辞めろ」

 「そうですか。ならば総長として、責務を全うして下さいね。」

 「わかってる」

そう返すと同時に、電気ケトルの中身が沸けた。

心を落ち着かせながら、それを持ち上げる。

本当に、恐ろしいほど洞察力が鋭い奴だ。

湯を注ぎながら、彼の言う通りだと反省する。


 俺は、未だにユリの冤罪を信じている。

仲間の前でそれを唱えられる程の根拠はない。

ただ、記憶上の彼女が無罪そのものなのだ。

あの日、彼女が倉庫に訪れた時から。

彼女は最も純粋な存在であると、俺は知っていたんだ。