黒百合の女帝

 「下の名前で、呼んで欲しい」

前回の件からおよそ三日後。

棚橋の方から、そんな要望が。

卵焼きを咀嚼しながら、返事を模索する。

同級生から借りた恋愛小説に、その様な展開があった。

確か、名字よりも名前の方が親近感を覚えるらしい。

という事は、私への警戒心が薄れているのか。

 「じゃあ、楽亜君で良い?それとも楽亜?」

 「後者」

 「じゃあラクアね。代わりに、ラクアはユリって呼んでくれる?」

 「わかった」

その返事に微笑み、昼食を食べ進める。

ユリと呼んで貰えるのは、こちらとしてはありがたい。

ヤナギや嶺春の連中に、姓は知られていないのだ。

彼らの前で、うっかり黒崎と呼ばれては困る。


 それにしても、この一ヶ月は順調だった。

手当ての翌日から、彼の反応は日に日に向上。

今では、野菜スティックを一本貰える程に成長。

ただしその代償に、同級生との時間が大幅に減少。

彼女たちからの信頼が揺らぐ事は大問題。