黒百合の女帝

 だが、いつまでもこの体勢ではいられない。

体を起こし、シートを模した硬い席から降りる。

するとヤナギも遅れて立ち上がり、隣に並んだ。

 「ユリ。僕、クレーンゲームなら負けないよ?」

その言葉に、顔を上げる。

彼の微笑は、普段と違い活発なように見えた。

 「じゃあ、菓子でも取って貰おうかな。」

 「ええ?折角ならぬいぐるみとかにしようよ〜」

 「別になんでも良いけど。」

私の返答に、ヤナギが満足気に頷いた。

そしてぬいぐるみの台に向かい、中を指差す。

 「じゃあ、これを取ってあげよう」

 「でかい。こっちにして。」

ヤナギの腕を掴み、強制的に別の台を指させる。

すると彼は口を尖らせ、その台に歩いて行った。

 「ちっちゃ〜、まあいっかあ」

ヤナギは文句を言いつつ、財布を取り出す。

平然と出した財布は、一流ブランドの代物。

もはやそれに驚くまでもなかった。

内心呆れていると、彼がゲームを始める。

どうやら、彼の発言は妄言ではなかったようだ。

彼はたった二回でキーホルダーを取ってみせた。

犬のぬいぐるみを受け取り、ほつれを確認する。

まあ、これなら400円で元は取れただろう。

 「私の通学鞄にはディ◯ニーの先客が居るんだけど……。」

 「じゃあスマホにでも付けたら?」

 「え、やだ。」

肩掛けの鞄に一旦付け、その台から離れる。

その後も、ヤナギは何台かを制覇していった。

この時だけは、ヤナギが大学生に見えた。