黒百合の女帝

 そうしていると、突然ヨウが真剣な表情に。

チョコを脇に置きつつ、その様子を心配する。

一分くらいは沈黙が続いただろうか。

ヨウは意を決したように口を開いた。

 「なあ、ヤユ。嶺春に戻る気はないのか?」

 「えっ」

不意を突かれ、思わず声が漏れる。

出掛かっていた涙も、衝撃でひっこんだ。

質問について考えるが、答えは悩まなかった。

少し前までの自分なら、揺らいでいただろう。

でも、今は違う。

僕はあそこに戻れるような分際じゃない。

僕は嶺春との幸せを望んではいけない。

そう、身の程を弁えられるようになったんだ。

最後まで、その覚悟を絶やしちゃいけない。

 「ごめんね、ヨウ。僕、もう嶺春に戻る気はないから」

僕の言葉に、ヨウが苦々しげな顔をした。

なぜか、その表情は泣きそうにも見える。

しかし顔を上げた彼は、笑顔を浮かべていた。

辛いのを我慢している、とすぐにわかる笑顔。

それを見ると、ひっこんだ涙が溢れそうになる。

それでも、懸命に心を落ち着かせようとした。