黒百合の女帝

300ページ到達記念おまけ

叶鳴side

 周りよりも、明らかに俺は特出している。

それが嶺春加入から三ヶ月が経った頃の感覚だ。

まだ新米だが、抗争でポジションを与えられる。

同期や先輩とも良い関係を築けていたと思う。

俺はもしかしたら、嶺春に向いているのでは。

そんな自惚れは、勘違いなどではなかった。

その証拠に、一年後には計画考案の一部を担当していた。

俺は気付けば、副総長の右腕という立場にいた。

そうなると、自然と総長にも注目される。

更に半年後には、幹部に任命されていた。

中学二年生の幹部というだけで異例だった。

当然の如く、同期とは大きな差ができていた。

にも拘らず、皆とはまだ交友関係が続いていた。

全てが円滑に進んでいた筈だった。


 それが歪んだのは、中学三年に上がった頃だ。

俺はその頃には、次期総長候補でもあった。

俺としても、総長になるのは一つの夢だった。

だから、誰よりも頑張った。

後輩の指導も、抗争の計画を練るのも。

仲間内の問題の仲裁も、同盟先との交渉も。

奇襲をかけてくる族の対処も、情報収拾も。

できる限りのことはしたつもりだった。

それでも、あの野郎にしてやられてしまった。


 その頃、俺よりも総長と親しい幹部がいた。

名を坂口というそいつは、当時高校二年だった。

たったの二歳違い。それを彼は誇示していた。

そして何かあるたびに、俺に突っ掛かって来た。

多分、同じ総長候補への牽制だろう。

それにしては、俺だけに当たりが強かった。

理由は単純なもので、鼻で笑いたくもなる。

『次期総長候補の中でも、最有力候補は梅井叶鳴らしい』

坂口は、そんな噂を本気で信じていたらしい。

普通に考えれば、坂口にも勝算はあった。

彼は総長から誰よりも可愛がられていたのだ。

そして、次期総長を指名するのは総長。

彼は、俺よりも有利だったかもしれない。

それなのに、あいつは余計なことをしやがった。


 ある日、俺たち嶺春は抗争に負けた。

嶺春の敗北は、滅多にないことだった。

調べた結果、原因は実力の問題ではなかった。

嶺春の計画が、全て敵に渡っていたのだ。

当然犯人探しが始まり、皆が疑心暗鬼になる。

そんな中、こんな噂が流れ始めた。

 『作戦を流したのは幹部の梅井叶鳴』

良い加減な話だと思った。

作戦を漏洩させて、俺に何の利益がある。

まあ、大抵の者は金銭だと踏んだようだが。

最初はいつ消えてもおかしくない程度だった。

しかし、日が経つにつれて噂は広まるばかり。

ついでに、尾ひれがどんどん付け足される。

いつの間にか、それが事実かのように取り扱われていた。

結局、俺は総長室に呼び出しを喰らった。

幹部しか流出できない、お前ではないのか。

そう問い質す総長から、信頼は消え失せていた。


 それから一週間後、俺は嶺春から追放された。

どうやら、俺が情報を売った証拠が見つかったらしい。

見覚えのない証拠は、捏造されたものだった。

何度も異議を唱えた。泣いて頼み込んだ。

それでも、結果は変わらなかった。

二週間後、坂口が総長になったと知った。

その時、どう思ったのだったか。

確か、酷く失望した。

俺が信じた仲間に、嶺春に、酷い悪党に。

それに加え、再起の炎を燃やした。

俺の嶺春における歴史を、汚されたままにしてはいけないと。

とにかく、その日を境に復讐を誓った。

それは唯一確かなことだ。