*
四月の晴れた朝。私は散り始めた桜並木を会社に向かって歩いていた。
周りにはスーツを「着ている」のではなく、スーツに着られているような新鮮な姿の新社会人たちが何人も見受けられた。桜吹雪がとても似合うなとほのぼのとした気持ちになる。 早いなあ。私が入社してからもう一年か。私もこんなふうに先輩方から見られていたのかな。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「おはようっ! 実花(みか)」
「理人(りひと)くん、おはよう」
振り返り、私はぎこちない笑顔を作った。そのぎこちなさに気付いていないのか、理人くんはすっと隣に並ぶと「いやあ、今日はいい天気だよな」と楽しそうに笑った。私は背の高い理人くんを見上げながら「そうだね」と面白みのない相槌を打った。
何故今私は理人くんと歩いて会社に向かっているのだろう。
簡単に言うと彼氏だからであるが。
「実花、今日俺んとこの部署、新入社員の配属予定が発表されるんだよ。何人来るかなー。実花のところは?」
「えっと、うちの人事部は新入社員の配属は今年はないの」
「そっかー! 残念だな。いつも忙しそうなのに、人手不足が解消されなくて大変だな。頑張れよ!」
理人くんは私の肩をぱんぱんと景気よく叩いた。不意打ちだったのでちょっとむせそうになる。
「あ、悪い、大丈夫?」
「う、うん」
理人くんは誰に対しても気さくな人だ。一緒にいるとちょっと緊張するけどいい人だと思う。
私は「全然大丈夫だよ」と微笑んだ。理人くんも微笑み返してくれた。
しばらく話していると、会社のエントランスが見えてきた。
「あ、俺ちょっとこっちの棟に用があるから」
そう言って理人くんは研修棟を指さした。
「あ、そうなんだ。朝から大変だね」
理人くんこそいつも仕事が忙しそうだ。営業部に所属している理人くんは人事部よりも残業が多い。いつか倒れないかと心配している。
「体に気をつけて頑張ってね」
すると理人くんは何故か嬉しそうに顔を歪ませた。そしてすっと手が上がった。が、途中でその手は止まり、そしてふらふらと左右に振られた。
「じゃ、またな!」
「うん」
私もにっこりと笑って手を振り返した。
軽い足取りで理人くんは研修棟に向かった。仕事がハードでもいつも元気そうでちょっとうらやましい。そんな彼を見送りながら、私はまだ不思議な気持ちだ。
なんで理人くんは私と付き合いたいと思ったんだろう。
四月の晴れた朝。私は散り始めた桜並木を会社に向かって歩いていた。
周りにはスーツを「着ている」のではなく、スーツに着られているような新鮮な姿の新社会人たちが何人も見受けられた。桜吹雪がとても似合うなとほのぼのとした気持ちになる。 早いなあ。私が入社してからもう一年か。私もこんなふうに先輩方から見られていたのかな。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「おはようっ! 実花(みか)」
「理人(りひと)くん、おはよう」
振り返り、私はぎこちない笑顔を作った。そのぎこちなさに気付いていないのか、理人くんはすっと隣に並ぶと「いやあ、今日はいい天気だよな」と楽しそうに笑った。私は背の高い理人くんを見上げながら「そうだね」と面白みのない相槌を打った。
何故今私は理人くんと歩いて会社に向かっているのだろう。
簡単に言うと彼氏だからであるが。
「実花、今日俺んとこの部署、新入社員の配属予定が発表されるんだよ。何人来るかなー。実花のところは?」
「えっと、うちの人事部は新入社員の配属は今年はないの」
「そっかー! 残念だな。いつも忙しそうなのに、人手不足が解消されなくて大変だな。頑張れよ!」
理人くんは私の肩をぱんぱんと景気よく叩いた。不意打ちだったのでちょっとむせそうになる。
「あ、悪い、大丈夫?」
「う、うん」
理人くんは誰に対しても気さくな人だ。一緒にいるとちょっと緊張するけどいい人だと思う。
私は「全然大丈夫だよ」と微笑んだ。理人くんも微笑み返してくれた。
しばらく話していると、会社のエントランスが見えてきた。
「あ、俺ちょっとこっちの棟に用があるから」
そう言って理人くんは研修棟を指さした。
「あ、そうなんだ。朝から大変だね」
理人くんこそいつも仕事が忙しそうだ。営業部に所属している理人くんは人事部よりも残業が多い。いつか倒れないかと心配している。
「体に気をつけて頑張ってね」
すると理人くんは何故か嬉しそうに顔を歪ませた。そしてすっと手が上がった。が、途中でその手は止まり、そしてふらふらと左右に振られた。
「じゃ、またな!」
「うん」
私もにっこりと笑って手を振り返した。
軽い足取りで理人くんは研修棟に向かった。仕事がハードでもいつも元気そうでちょっとうらやましい。そんな彼を見送りながら、私はまだ不思議な気持ちだ。
なんで理人くんは私と付き合いたいと思ったんだろう。
