どうして、ここに在ると分かったのか──

 自分でも説明できない。
 それでも私は迷うことなく、ぎっしりと並ぶ書架の間をすり抜け、求めていた本を手にしている。

 そもそも、施錠されているはずの図書館の書庫が、たまたま開いていたこと自体がラッキー過ぎ。
 さらには、普段なら近づきもしない書庫の前を通ったことや、その扉が数センチだけ開いているのに気づいたことだってそう。

 ということは中に人がいるんじゃない? と思ったのに、誰にも遭遇しなかったのも奇妙な話。
 何から何まで異例尽くし。

 箔押しされたタイトルは、元々は金色だったのだろうけれど、ほぼほぼかすれてしまっている。
 貸出不可とラベルされた黒皮の表紙をめくってみると、裏にはしっかりとタグが貼り付けられていた。
 古い本特有の匂いを備えているくせに、何だかチグハグな印象。

(こっそり家に持ち帰るのは無理そう)

 胸に抱えて、音を立てないように書庫を抜け出した。