恋の囚人番号251107都合いい女

重く閉ざされた門が開いた。

3年6カ月。
予定よりだいぶ早く片付いた。

短くなった髪に
夏の終わりを告げる風が襟足をくすぐった。

「お勤めお疲れ様でしたっ」
春樹が声を張って近づいてきた。
「うるせーんだよ。ばーか。」
笑う俺に煙草を差し出し
嬉しそうに懐いてくる。

車の後部座席に身を沈め
安堵のため息で煙草をふかした。

滑るように走り出す車の窓には
見慣れないビルや店が建っていた。
「浦島太郎だな」
時間の流れを感じた。
春樹は、浮かれて終始喋りかけてくる。
うるせーと思いながらも
止まった時間がまた動き出す感覚に
ホッとし始めた。


「おい、どこ向かってんだよ。本家行けよ」
「はぁ⋯ちょっと」
「あ?ちょっとなんだよ」

病院前の道路でハザードを点けて車は停まった。
「見舞い?」
「いや~ちょっと⋯」
苛ついて運転席を蹴った。
「んだよ。」
「はぁ。すんません」
はしゃいで喋ってた春樹が
ハンドルを抱え
急に歯切れの悪い態度になった。

「あっ!」
急に顔を上げた。
つられて視線の先を追う。


通用口から出てきた女は
俺がよく知る姿より
少し大人びて見えた。

獄中で
何度も名前を呼んでは諦め
何度も夢に見ては消し去り
しまい込んだ思いが甦る。


「ここの小児科でナースになったっす。」
春樹は車のライトをハイビームにして合図を送った。

「何してんだよっ!車出せっ」

今更、どの面下げて会えっつーんだ。
何もしてやれず
何も言わずに置いてったのに。

「え?でも⋯」
でも、じゃねーんだよ。
「早く行けよ!」

ノロノロと車を出そうとする窓から
一瞬、俺を見るアイツと目が合った。

くそっ。
会う気なんてねーんだ。
会えるわけねーんだ。

苛立ちを窓にぶつけた。


ルームミラーで後ろを気にしながら
春樹は顔を強張らせてゆっくり車を発進させた。



ちょうど本線に乗ろうとしたとき
春樹はブレーキを踏んだ。
「銀丈さん」
ハンドルを握ったまま
ルームミラー越しに泣きそうな顔で
「後ろ…」
と、口を結んだ。


2度と会わないと決めて
アイツを置いてったんだ。
なのになんで今更。

目を閉じ天井を仰ぐ。

はぁ⋯
ゆっくり息を整え後ろを振り返った。


道路に座り込んで俯く
アイツの小さな姿が見えた。




あぁ、くそ。


一目会えばこうなるってわかってたのに。


名前を呼ばずにはいられなかった。