恋の囚人番号251107都合いい女

病院の近くのカフェに
向かい合って座った。

外の車には春樹くんが待っている。

「椿さんはお元気ですか?」
当たり障りのない話で沈黙を回避した。

「あぁ。」
胸ポケットから携帯を出すと
小さな天使を抱いた
笑顔の椿さんの写真を見せてくれた。

「わぁ可愛い。おめでとうございます」
やんちゃそうな顔は父親似なのだろう。

「キミに会いたがってるんだが、俺が止めたんだ。」
携帯をしまうと硬い表情をした。

「銀がいない今、俺達と関わる必要ないからな」
あぁ、この人はやっぱり
銀丈くんがいる世界の人なんだな。

「銀丈くんは、どうしていますか?」
1番聞きたいこと。
でも聞いたからってどうにもならないことを
口にしてしまった。

こうして向かい合って座っている以上
お互い話したいことは
これしかないってのはわかってる。



「銀が懲役に行くのはだいぶ前から決まっていたんだ。」
そう言って
煙草に火をつけて一息吐いた。
長いため息のように。



会社を⋯って言ったけど
きっとテレビのテロップで見た殷雷組のこと。

大きく進出するためには敵も多くて
銀丈くん達は危ない橋をいくつも渡ったのだと。

ようやく終わりが見えた頃
ジンくんを失い、
銀丈くんも大怪我をして
転がるように戦況が悪化していって

最後の一手として
敵方に悪事を全部被せるために
銀丈くんの逮捕という幕引きが必要だったのだと。

淡々と話してくれた。

私はただ黙って聞いていた。


そういう世界だと言われても
はいそーですかなんて言えなかったから。


「逮捕状も出てたし、
すぐ出頭する予定だったんだが
君に会った翌日まで延ばすよう掛け合ってくれと
銀に頼まれたんだ」

卒業式の日だ。

「キミに何も残せないから、
最後にキミの願いを叶えたいって。」



話を聞きながら
胸が張り裂けそうだった。

やっぱり⋯。

銀丈くんの笑顔や甘い声が
次々溢れてくる。

月が綺麗だと
泣き顔に見えたあの笑顔を
思い出したとき

私は、ただただ泣くしかなかった。


「こんな話、今更だが、
銀がキミを大事に思ってたことだは確かだよ。」


「言ってくれたら良かったのに。
ただ、じゃあなって⋯」



「待ってろとも、忘れろとも言えなかったんだろ。
どちらを言ってもお互い辛くなるってわかってるから。」


銀丈くんは
幸せな時間で最後を飾り
愛を置き土産に行ってしまった。

そうするしかできなかったから。


「銀を助けてくれて感謝してる。
巻き込んですまなかった。銀を許してやってほしい。
キミには幸せになってほしいと椿からの伝言だ。
俺もそう思ってる。」

そう言って伝票を持つと席を立った。