恋の囚人番号251107都合いい女

支度を済ませると
銀丈くんがスーツを着ていた。

家に戻って以来
初めて見た。

相変わらず男前が際立つカッコ良さ。

「仕事?」
「んー?まぁ。」
あれ?歯切れ悪い?
「それよかお前の制服。これで見納めかぁ」
はぐらかした?
「もっと色々ヤっときゃ良かったな」
笑っていたずらにキスをするから
まいっか、ってなっちゃった。


家を出ると駐車場へは行かず
エントランスに向かうと
大きな黒い車の運転席に
春樹くんがハンドルを握っていた。
助手席の人が出てきて仰々しくドアを開ける。

後部座席へ促され
一緒に乗った。

「まぁ、たまにはいいじゃん。」
うん。別にいいけど。
なんか朝から色々イレギュラーだなぁ。


慌ただしい朝の街をすり抜け
車は静かに、滑るように走る。

「卒業式かぁ。俺が⋯とか想定外だったな」
ボソッと呟いた。
「運命の出会いだからしょーがないよ」
私は笑って銀丈くんの肩に頭を乗せた。

「最初は、椿忘れるための都合の良い女になるかな
って思ったんだけどな。」
苦笑いの銀丈くん。

「ひど。でも私もそれでもいいって思ってた。」

「お前が超絶責めて来るから」

「やっ。そんなんじゃないじゃん。」

「うそうそ。お前の気合に負けたわ。
あー違うな。お前の真っすぐさが刺さったんだな。」

じゃれながら、
辛くて、甘くて、苦しくて、愛しい日々を思い出す。

「都合の良い女卒業?」

「だなー。」

「今は?」

覗き込んだ私の顔を見返し
銀丈くんは


「一番大事な可愛い女。」


と、無敵のキラーワードを言った。

ふわっと顔が熱くなって
両手で押さえたら
ルームミラー越しに
春樹くんと目が合った。


「せり。」
改めて名前を呼ばれ我に返る。
「ん?」

少しの間、銀丈くんは固く口を結んで
私を見ていたけど

「なんでもね。着いたぞ。」
優しい笑みを浮かべた。

「あっ。ありがと。あとでね。」

窓の外の門を見て
車を降りようと手をかけたとき

反対の手を急に取られた。


「せり。」
大好きな声が私を呼ぶから振り返る。
大好きな人が私を見てる。

「あー…月が…。綺麗だな」

優しい笑顔なのに
泣き顔に見えたのは
どうして?



「月?まだ見えないよ?」

雲一つない真っ青な空には
儚げな白い月はどこにもなかったから。


キョトンとする私に
「じゃあな。」
と言うと
銀丈くんは手を離した。


「…?行ってきます」


笑う私に
いつもの笑顔を返してくれたけど
なんかちょっと違和感。

なんだろう。



モウ 答ㇵ出テ イタンダネ…