恋の囚人番号251107都合いい女

「全ての手配は済んだぞ。」
兄貴が言うんだから
ばっちりなんだろうな。

一連の計画が終わり
残り1つを仕上げたら
ミッションコンプリートだ。

疲労、達成感、喪失感
高揚、不安、誇り、期待、責任
それから、たった一つの心残り。
様々な感情が俺を作る。


電話で済む話なのに、
わざわざ家まで来て
面倒見良すぎんだろ、兄貴。

いや、それよりも、こっちだ。

さっきから窓の外見たまんま
一言も喋らねぇ、親父。

家に来るなんて初めてだろうよ。
ま、最初で最後か。


「悪ぃな。色々わがまま通させてもらって。」
煙草に火をつけ珈琲を啜る。
沈黙が続いた。



ピンポン♪ガチャ

パタパタと聞きなれた小幅の足音が
リビングに入ってきた。
「ちょっと早く来ちゃったよぉ。
楽し…み。あっ」
想定外の来客に、せりが驚いた。

「ごめん。お客さん…
あっ。お兄さんっ、この間はお世話になりました。
えっと…外行ってくる!
あっ。お菓子とかいる?大人は食べないか…」
ペコリと頭下げて慌ててる姿は可愛くて
ほんとは、すぐ抱きしめてぇとこ。

慌ててても、拙くても
周り見て気ぃ使えるせりを何度も見て
いい嫁さんになるんだろうなって思った。


「この子か?」
親父が初めて喋った。
「あぁ」

「宮崎せりです。
急にお邪魔してすみませんでした。」
俺たちの顔を見比べて、すぐに察したせりは
緊張した顔でまたペコリと頭を下げた。


「色々、怖い目に合わせてすまなかったね。
それから…息子を助けてくれてありがとう。」

親父が
頭を下げた。

初めて見た。


「えっ。そんなっ!!!とんでもないです!!!
銀丈くんがいないとダメのは、私の方だから
むしろ私の方が助かったと言うか…。
いつも大事にしてくれる、お返しなんで、
まだまだですからっ。」

相変わらず、散らかった言葉で
一生懸命、愛を謳う。

見ろよ、親父と兄貴の顔。
鬼だの、雷神だのと一目置かれる極道が
すっかりファミリードラマの一員だぜ。


「もぉ、いいだろ。邪魔すんなよ。」
口を挟まないと
このまま、ほのぼのと団らんしそうだった。


「銀。」
親父は、そう呼んで肩に手を置くと
ガキの頃みたいに
頭をポンと叩いて出ていった。




「銀丈くん…。ごめんね。
めっちゃ邪魔しちゃった。」
しょんぼりしてるせりの頭を
親父と同じようにポンと叩いた。
「いーんだよ。もう終わったから。」


「ほんと?こっからは私の時間?2人だけ?」
腰に手を巻き付け甘えてくるせりを見下ろす。
「あぁ、死ぬほど可愛がってやんからよ。」




明日は、せりの卒業式。

”銀丈くんに恋をした高校生の私が最後の日”
なんだってさ。
だから、一緒にいたいっていうから。

しょーがねぇなぁ~ってぼやいたけど

一緒にいてぇのは俺も同じ。
俺にできることは、全部叶えてやりたい。



警護は明日の昼までの予定だったけど
今朝、解除した。

朝まで俺だけ見てろよ。

お前に会って
大切にしたいって気持ちも
守んなきゃって決意も
失うかもって怖さも
そばにいる愛しさも
初めて知ったんだ。

最後の夜は
お前と2人がいい。


せり、夢ばっか見せてごめんな。