恋の囚人番号251107都合いい女

「なんだよ、ジンくん。ここにいたのかよ」
「おぉ。銀、見ろよ。夕日が沈むぜ」

jo'sの屋上だ。
ジンくんが柵に寄りかかって
煙草吸いながら、デカい夕日が
埠頭の先に沈んでくのを見てる。

「好きだなぁ。何万回見てんだよ」
って、言いながら俺もつき合う。

いつもの景色だ。


「一日の役目を終えて
燃えながら消えていく様が、カッコいいじゃねーかよ」

この後にいつも言うジンくんの口癖を
俺は知ってる。

「俺もこうなりてーって言うんだろ?」
俺に先を越されて
蹴りでも入れてくるはずなのに

ジンくんは、
笑みを浮かべて夕日を見ているだけだった。


「ジンくん?」

「その時が来たんだ。」

え?


「カッコいいだろ?先、行くぜ。」

ジンくんは
咥え煙草で夕日に背を向けた。
でかい夕日を背負ってるような姿が
段々、炎に包まれてぼやけていく。


「おいっ!待てよ。俺も行くって」

手を伸ばすと
ジンくんは
炎の中から俺の後ろを指さして笑った。
「お前はあっち。呼んでんぞ。足枷が。」

確かに、俺を呼ぶ声がする。



「もー会えねぇの?」

「ばーか。いんだろ、いつも。ここに」
ジンくんは拳で左胸を叩いた。



あぁ、そっか。
ジンくん、逝っちゃうんだな。

「ありがとな」
俺も拳で左胸を叩くと
ジンくんは笑って消えた。



辺りは急速に暗くなったけど

俺は、振り返らず
声のする方へ歩く。


声が近づくと
身体がだんだん重くなって
薄明りに片目を開けるのが精いっぱいだった。

俺を呼ぶ声に
俺も声を掛けた。


「銀丈くん。おかえり」


そうだった。
これが聞きたかったんだ。

せりは、こどもみたいに大泣きして
何度も俺の名前と
おかえりを繰り返した。



ジンくん。やっぱ、先行ってて。
せりが泣くから、逝けねーよ。