恋の囚人番号251107都合いい女

私…どうしたんだっけ?

初めて見る天井に戸惑い
焦点を合わせて
記憶をつなぎ合わせる。

椿さんの大きなお腹
走る車 高台の洋館
お兄さんの顔 白衣のおじいちゃん

猛スピードで頭ん中を駆け巡り
張り裂ける思いを糸にして
記憶が数珠繋ぎになった。



銀丈くんっ!!!!!

急いで身体を起こすと
毛布が落ちた。


銀丈くんは?どこ?


でも、すぐに
薄明りの部屋に人の気配を感じて
反射的に向いた。

勢いよく吸い込んだ息は、
そのまま呼吸を忘れ
視界に映る姿を
瞬きもせず見ていた。

銀丈くん…?


「あ…。」

言葉にならない声とともに
膝から転げ落ち
慌てて立ち上がると
気が急いて足がもつれた。


不格好のまま駆け寄って

立ちすくんでしまった。


銀丈くん…。


あちこち包帯が巻かれ
点滴やコードが身体を繋いでる。

両肩や腕には痣が残り
左瞼はどす黒く腫れ、唇も切れていた。


ピッ…ピッ…ピッ…
規則正しく波打つ機械に繋がれた銀丈くんが
目を固く閉じ横になっている。


痛々しいけど
繋がってるってことは
頑張ってるってことでしょ?
もう大丈夫ってことだよね?



「銀丈くん…」
声にしただけで涙が出た。

いつもなら
「ん?」って目を開けてくれるのに。

いつもなら
眠そうに目を細めて髪を撫でてくれるのに。


「銀丈くん…。起きてよぉ…」
涙が邪魔して鼻声になる。

なんか言ってよ。
声が聞きたいよ。


ペタンと絨毯に座り込み
銀丈くんの手を握ったら
温もりが、私の心細さを和らげた。



銀丈くん。
私はここだよ。
ずっと、待ってるよ。


握った手に顔を寄せると
確かに、体温を感じた。

「良かった…。頑張って。」

目を閉じると
涙が頬を伝って
銀丈くんの手を濡らした。



ぴくっ。


人差し指が
わずかに動いた。

驚いて顔を上げて立ち上がり
銀丈くんを見る。


ゆっくりと
右目が僅かに開いて

「せり。泣いてんの?」


ずっと聞きたかった声が
一番大好きな声が

私の名前を呼んだ。