恋の囚人番号251107都合いい女

県外をとうに過ぎ
湖が見下ろせる高台に
大きなレンガ造りの門に守られた
ひと際大きな洋館が見えてきた。


「病院?」
回らない頭でどうにか声を出す。

「病院に行けないときに使う別宅よ。
ここなら誰にも知られないから安全なの。」
椿さんは、
門を過ぎると玄関の真ん前に急停車した。


「銀丈くん…。」
名前を口にしただけで涙が出そうだった。

「発見が遅れたのと、傷が深くて出血が止まらないの。」
椿さんは、私の手を握った。

「それでも、まだ銀は頑張ってるから。
会ってあげて。」
椿さんの強い瞳に頷いた。


泣いてる場合じゃない。
そばにいるって決めたんだから。


急いで洋館の中に入ると
広いロビーと高い天井は暗く
ひっそりと息をひそめ
手前の2部屋に明かりがついていた。

左のドアは洋館によく似合う重厚な扉なのに
右のドアは無機質な自動ドアだった。

「まだ手術中よ。」
椿さんが右のドアを見て教えてくれた。
左のドアに案内され中に入ると
お兄さんと数人の男の人がいた。

「遠くまで悪かったね。」
前にみたときより少し痩せたお兄さんが
声を掛けた。

「いえ…呼んでいただけて良かったです。
椿さんにずっと運転させてしまってすみません」
身重の運転がどんなに辛いか経験はないけど
楽ではなかったはず。

「いいのよ。そんなこと。
せりちゃんはいつも人のことばっかり。」
椿さんの言葉にお兄さんは黙ってうなずいた。


バタバタっ…

自動ドアが開き、
とりあえずの白衣を着たおじいちゃんが
血まみれの手袋を廊下に投げ捨てて
室内に入ってきた。

「血液はまだかっ?!」
イラついてるおじいちゃんの問いに
「1時間以内には…」
窓際の男の人が答えた。

「持つかわからんぞ。」
室内がざわついた。


耳鳴りがして
血の気が引く

助けて 助けて 神様
誰でもいいから 助けて

銀丈くん…
銀丈くん…

声にならない声が
頭の中で何度もこだまする。



あっ・・・!!!!!!


「あのっ!!!私!!!!同じです!!!」
急に大きな声を出してむせた。
焦って声が空回りしてる。

早くっ

「銀丈くんと同じ血液型です。ダメですかっ?」

「せりちゃん…。」
椿さんが息を飲む。

お兄さんが私とおじいちゃんを交互に見る。
「いけるか?」

おじいちゃんがようやく私に気づいた。
「何歳だ?」
「18です」
「適合検査するから来い。」




なんでもいい
私の全部あげるから…。

銀丈くんを連れて行かないで。

お願い。


銀丈くん…私を一人にしないで。