恋の囚人番号251107都合いい女

大丈夫
もうすぐ来るから…。

そう、何度も言い聞かせて
更に2時間が経ったころ


ぴんぽん♪

控えめな可愛いドアチャイムが鳴った。


「銀丈くんっっ!!」
ドアまで走って勢いよく開けて抱き着いた。

「おかえり」
もう会えたから、全てチャラにできる安心感。



「悪ぃ。ごめんな。遅くなって」
笑って腰に手を回しながら、おでこにキスをくれた
けど、すぐに
乱れた前髪と緩んだネクタイに違和感を感じた。


「急いだから汗かいた~。先シャワー行くわ。」
手早くスーツをソファに脱ぎ捨てると
下着姿でバスルームへ消えた。


スーツをハンガーに掛け
黒いワイシャツとネクタイも拾う。

!?

シャツの袖口が赤黒く濡れている。


血だ…。


慌ててバスルームに駆け込んだ。


「ぅおっ!!なんだよ。一緒に入りてーの?」
シャンプーを付けたままの銀丈くんがこっちを向いた。

私は、勢いよく流れるシャワーに
服を着たまま駆け寄り
髪を洗う銀丈くんの手を取った。

手の甲が少し腫れている。


銀丈くんの血じゃないんだ…。
ホッとして

ハッとした。

あ・・・。
服着たまんまだった。
濡れていくワンピースに
呆然としながら
銀丈くんを見上げると


「大丈夫だよ」
悲しそうに笑うから
私も何とか口の端っこを上げるしかなかった。





濡れたワンピースをハンガーに掛け
バスローブを羽織ると
銀丈くんがバスルームから出てきた。


「超豪華なお部屋だね!
お姫様みたい。ごはん頼む?
ケーキあるよ。甘くないやつ。」
明るく努めようと早口になってしまう。



「せり」

銀丈くんの固い声にびくっとした。


「来いよ」
銀丈くんは、窓際のデイベッドに足を伸ばして座ると
私を呼んだ。

横に座ると
私の足を自分の腿に乗せ横向きにし
肩を抱いて

「やっぱ、怖いよな」
銀丈くんがため息をつく。


私が動揺することは
銀丈くんを困らせてしまっているんだろうな。


でも困ればいい。
私って荷物のために
困って”最悪”を留まればいい。



「怖いんじゃなくて、心配なだけ。」
「そっかぁ。当分続くぜ、その心配」

「仕方ないね。」
「嫌じゃねぇの?」

「心配することが?全然…なんで?」
「いや、むしろこっちが、なんで?なんだけど」

「え?好きだからじゃん」
きっぱり言い切る私を驚いて見ていた。

「知らなかったの?何回も好きって言ってるじゃん」
「いや…。それは聞いたけど」

「私の好きを甘く見ちゃダメだよ。
一目ぼれして思わず走っちゃうくらい強力なんだから!!!」
「はぁ」

「何があっても、好きだから仕方ないな。
って思えるぐらいすごいの。
私の気持ち。ずっと変わらないんだから。」
「ちょ…。待て。何言っ…!」


「もぉ!聞いて。」
困惑する銀丈くんを遮り続ける

「私に言えないことでも、
やんなきゃいけないことがあるんだろうって思ってる。
その度、何かあったらどうしようって
ずっと心配だけど

好きだから心配なの。
ちゃんと帰ってきてくれるなら
どんなに心配したっていいもん。」


どうして
私はいつも上手く言えないんだろう。
溢れる思いを
ちゃんと伝えられる術があったらいいのに。


「銀丈くん。私を置いてかないで。お願い。
心配するしかできないんだからさ。
そんなんどーだっていいの。
銀丈くんが、いなくなったら死んじゃう。
だから、ちゃんと帰ってきてね。」



「なんでそんな、バカなの?」
抱いた肩を引き寄せ髪に顔を埋めた。

「なんでそんな、分かんないの?」
涙がこぼれて鼻声になる。

「分かってるよ。ほんとバカだな、お前。
こんなに俺のこと好きでさ。」
笑って涙をぬぐった。


「うん、そうなの。銀丈くん…大好き」
「ずっと言ってろよ。」

Merry Christmas

銀丈くんの影が近づいて
朧月夜に隠れてキスをした。


「銀丈くん…ご飯は?」
「ふっ。お前が重すぎて腹いっぱい。デザートが先」
「デザート?」


「お前」
そう言って、銀丈くんは首筋に痕を残した。