恋の囚人番号251107都合いい女

あの日
銀丈くんが出張から帰ってきて以来。

マンションで会うことがなくなった。
毎回、違うホテルに時間差で入り
時間差でバイバイする。

ルームサービスを受け取る以外
ドアを開けることはなく
部屋に籠りっきりで過ごした。

私の存在を
何かから隠したいんだと思う。

でも、聞かない。
何も知らないふりをして
銀丈くんの腕の中にいることが
私にできる唯一のことだもん。



「時間作れたから、イブの夜来いよ」
「やったぁ~。嬉しい!ありがとぉぉ」
つい先日、諦めていた
”初めてのクリスマス”が復活して
テンションが上がった。



もう冬休みだし
ゆっくりできる。

いつもより丁寧に髪を整え
お洒落にも気合が入る。
ホテルで過ごすときは
ギャル封印で大人レディ風に変身。
変装してるみたいでちょっと楽しい。

クリプレはめっちゃ迷った。
何しろ、銀丈くんは何でも持っている。
放課後、街をあちこち徘徊して悩んだ結果

黒曜石のピアスにした。
心身の保護や癒しの石で
悪霊からも守ってくれるらしい。
銀丈くんの瞳や髪にもよく似合いそう。

私の代わりにお守りになるように…。


夕飯には、間に合うって言ってたなぁ。
また、ルームサービスだろうけど
ケーキは買っていこう。

銀丈くんは、甘いの苦手だから
ビターなチョコケーキにしようかな。

モッコモコのバブルバスになる入浴剤も買っていこう。


大人ぶって、チェックインすると
今までで一番広い部屋だった。

「何人用?」
思わずポカーンとしてしまう。
窓もベッドも大きすぎるっ。
海外ドラマで見るやつだ。
デーブルも椅子もいっぱいあって
どこに座っていいのか悩むし
何より、一人は心細い広さ。

すごーい!!より先に
圧倒されてしまう庶民な自分が恥ずかし。


早く来ないかなぁ…。


冷蔵庫にケーキをしまって
無駄にバスルームやトイレをチェックしたり
いろんな椅子に座ってみたり
ベッドに転がってみたり
落ち着かない。

大きすぎるテレビを
見る気もないのにつけてみる。
真面目そうなおじさんが
夕方のニュースを読み上げていた。

九州最大勢力の指定暴力団花菱組幹部〇〇の行方を~…
関係施設を調べるとともに、××事業入札に伴う~が…
関東一円で抗争に発展す…

ブチッ。

つまーんなーい。暇だ。
テレビを消してipodを耳に差し込む。

心地よい低音とハスキーボイスが体内に流れる。
目を閉じると、身体が音に浮遊する。

初めて会った時の銀丈くんから順に
色んな顔や声を思い出し

早く来ないかなぁ…

いつの間にか睡魔が襲った。





ぱち。
目を開けると
室内は真っ暗で
窓の外には夜景が煌々と輝いていた。

え?寝すぎた?
今、何時?

慌てて携帯を見ると
21時を過ぎていた。
連絡もない…。

ガバッと起き上がる。
広すぎる部屋は、
空調が丁度良く効いているのに
寒気がして怖くなった。

銀丈くんは?

仕事が立て込んでるんだけだよね?

普段から、仕事に差し支えないよう
催促の電話はあまりしないようにしていた。


きっと急いで向かってるはず。


お願い
早く来て。