恋の囚人番号251107都合いい女

どうしたのかな?

金髪の運転手に行き先を告げると
銀丈くんは、何も話さなかった。

私の髪を撫でながら
窓の外をずっと見てた。

ベイエリアにそびえ立つホテルの地下駐車場で
待つように言われると、銀丈くんは先に降り
しばらくすると
ルームナンバーを伝えるLINEが送られてきた。

なんで、ここ?
なんで、時間差?

なんで…何も言ってくれないの?

不安が、黒いシミになって広がる。



ピンポン♪

聞きなれないチャイムを鳴らすと
ドアが開いた。
銀丈くんの向こうに夜景が広がる。

「なんで?」


色々な”なんで?”を聞きたい。

「ん~?家ばっかじゃ飽きんじゃん」
冷蔵庫から取り出したビール瓶にそのまま口をつけると
パリパリに糊の利いた
真っ白いクイーンサイズのベッドに大の字になった。


嘘だ。

家に来いって言ってたのに。

何より
様子が変だ。

でも、きっと
何も教えてくれないんだろうな…。


ってことは…

倉庫で見た
銀丈くんの殺気が脳裏をかすめ
心臓が痛くなった。

私に、できることは
ないのかな。



そっと、銀丈くんの隣に腰を下ろし
大の字を腕枕に寄り添った。

「何か、あった?」
「ん~?…ないよ。」

そんなはずない。



言わないのは、
言えないんだ。

嘘をついてるんじゃなくて

私に、知られないように
私の、心配を消そうとして
一人で背負ってる。

そうでしょ?



「銀丈くん。私ずっとそばにいるよ。」
Tシャツを、ギュッと握る。
「ん…。」
銀丈くんは、そっと手を添えた。


何も、言わなくていいよ。
何も、聞かないから。
何も、知らないふりして笑ってあげるから。

だから、もう
そんな顔しないで。


身体を起こして、銀丈君の手を胸に抱いてから
頬ずりして、掌にキスをする。

大丈夫だよ。

「触って…。」

消え入りそうな声でお願いする。


銀丈くんに、触れてほしい。
銀丈くんに、触れたい。

私達に近づいてくる不安の塊があるなら
忘れちゃうくらい、抱きしめてほしい。

ちょっとの間だけの逃避行かもしれないけど
二人でいるときは、そうしたかった。

二人でいるときしか
できないことだから。



銀丈くんは、思いつめたように私を見つめると
そっと抱き寄せ唇を重ねた。

はぁ…

長い吐息のあと
「俺のブレーキぶっ壊れそ。」

いつもより少し低い声が
ゾクッとお腹の内側を撫でていく。

銀丈くんと
どこまでも堕ちたい⋯

「私のも⋯壊して。」


堰を切ったように
お互いの唇をむさぼった。

ちゅ…ちゅ…ちゅるっ…じゅるり

どちらの唾液かもわからなくなるほど
キスをして

お互いの衣服を脱がせながら
キスをして

手足も視線も絡ませながら
キスをして

はぁ…ぅはぁ…ふぅ…はっ…はっ…はっ

荒くなる息遣いの中


んぁっ・・・・

体中の粘液と体温を混ぜ合いながら
銀丈くんの熱い塊が、私の身体を侵食して
ひとつに繋がった。


窓の外に見えるおぼろげな月と
壊れそうに綺麗な銀丈くんの思いつめた瞳に抱かれ
たった一つの願いを口にする。


「銀丈くん…どこにも行かないでね」


「どこ行くっつーんだよ」
銀丈君の指が私の指を捉え
強く絡ませて握った。


「あぁっ…んっ…気持ちい…」
深く 深く 
ゆっくりと中で感じる銀丈くんの熱さに
我を忘れる。

「せり…」
かすれた切ない声が私の名前を呼ぶ。


何もかも忘れて、淫らな行為に耽った。
何もかも捨てて、お互いだけを求めた。
それが、二人だけの時間に許される唯一のことだから。