恋の囚人番号251107都合いい女

剣竜組が動いた。

いよいよか。

あちこちで
キナ臭いヤマの交渉や、後始末に追われてる。
ったく、潰しても潰しても湧いててくるゴミ虫め。


「これで殷雷組も安泰だな。」
白髪の男が声を掛けた。

「いえ。これもひとえに花菱組のお陰です。
まだまだ精進します。」
こいつの機嫌をとって
タヌキっ腹を探りに、わざわざ九州まで来てんだ。
手ぶらで帰ることになんなくって良かったぜ。

でも、こいつらと手を組むってことは
オオゴトになるってことだ。

NYで幾つかのビルを金に変えたけど
湯水のように流れていく。

もう、あとには引けねぇ。


「ハッハッハ!弟君は謙虚だな。
よし。いい女と飲んで戦の前夜祭でもするか。」
「大変嬉しいお誘いですが、
明日早いんで今回はこれで失礼します。
改めてまた。」

有無を言わさず踵を返し料亭を出た。

行くかっつーんだよ。
いい女なら⋯もう間に合ってんだ。

早く帰りてぇ。



空港に着いて迎えの車に乗る。
「お疲れ様です!!」
後部座席に乗り込み
煙草に火を付けるのも忘れて
携帯を打つ。


(今、羽田。どこ?家こいよ。)


我ながら、塩LINEだと思うけど
甘さ加減なんてわかんねーし。

すぐ返信が来た。

はやっ。


(すぐ行く!!!!!!!!!!!!!!)


!連打しすぎだろ。
思わず顔がほころんでた。

「銀丈さん。いい収穫ありですか?」
ルームミラー越しに
金髪の運転手が尋ねた。

「まぁな」
仕事の事じゃねーけど。



見慣れた街に差し掛かると
にぎやかな人混みを縁取るように
イルミネーションが煌めいていた。

「もうクリスマスかぁ」
「そぉっすね。なんか予定あるんすか?」
また仕事かな。
どっか連れてって
はしゃぐ顔が見てぇけど。

煙草の煙を窓の外に吐いた。
ぼんやり通り過ぎる街並みを見てたら

周りがスローモーションに見えるぐらい
ダッシュしてる女が目に留まった。


「おいっ!!!停めろっ!!」
「えっ?あ、はいっ」



「せりっ!!」

思わず大声を出して呼び
煙草を投げ捨て飛び出した。

俺らしくないかな
でも、身体が勝手に動いたんだ。


赤ん坊みたいに顔を赤くして
肩で息をしながら立ち止まると
目をまん丸にしてから
ふにゃふにゃの笑顔になって飛んできた。

「おかえりっ」

あぁ。
失いたくないものってこれなんだな。

湧き上がる感情が
愛しさ
だと気づき

同時に
背筋に冷たいものが走った。

せりに触れようとした手が
一瞬躊躇する。



この手が、たとえ血まみれになっても
笑って抱かれてくれるかな⋯。

もう染まりつつあるこの手は
うまく隠せてるかな⋯。