恋の囚人番号251107都合いい女

12月に入り街はイルミネーションで輝いている。

「せりはクリスマスどうすんの?」
「俺カンナとスノボ」
「コウヘイには聞いてない」
「なぁぁんでだぁぁぁ!聞けー!!!!」
マイクを握ってコウヘイが叫ぶ。
「うるっせーんだよ!」
マリがポップコーンを投げた。

マリの進路が決まり
お祝いでカラオケに来たけど
話に花が咲いて
なかなか歌が進まない。
いつもそう。

こんな高校生活もあと少しか。

「銀丈くん出張中だからどうかな?忙しそうだし。」
デンモクをスクロールしながら
サラッと流した。

初めてのクリスマス。
まぁ、今んとこどのイベントも初めてだけど。

椿さんの鶴の一声で
あっさりシンガポールがなくなり。
ってか、呑気な旅行ではなく
訳ありな短期お引越しだったらしい。

詳しくは教えてくれなかったけど
銀丈くんをわざわざ連れて行くってことは
引越なんかじゃなく
"何か"からの避難
だったんじゃないかと思う。

とは言え
銀丈くんが忙しいのは相変わらずで
先週はNY
今は九州にいるらしい。

淋しいけど
春になったら
毎日同じ場所でお帰りが言えるから
今は我慢我慢。

「そぃやお前。なんで急に進路変えたの?」
コウヘイがポップコーンを投げてきた。
「ドラマ見てたらやる気スイッチ入ったから」
シレッと返した。

な~んの希望もなかった私は
推薦でどっかの短大にでも行くつもりだった。

進路希望調査には
「銀丈くんのお嫁さんって書こうかな」
って言ったら、一蹴されて

「そんなんいつでもなれんじゃん。
学校行けるうちに行って
友達でも思い出でも作って来いよ」

大人みたいなこと言うから
考えて 考えて

看護学校に決めた。

「きっとこれからも銀丈くん怪我するから。
してほしくないけど。
でも、もし怪我しても私が治してあげるからね」

「そこは医者目指せよ」
って笑ってたけど嬉しそうだった。

お嫁さんを否定されなかった私のほうが
嬉しかったけど
銀丈くんと一緒にいる未来が目標になったことは
誇らしかった。

「あ、なんか思い出してるなぁ~」
マリがからかって笑った。
「よし。今日は朝まで歌うぞー!!!」
コウヘイが立ち上がった。

ピロリン♪

LINEの通知にドキッとして
獅子のアイコンを見て立ち上がる。

「ごめっ。帰る!!マリ今日もアリバイお願いっ」
千円札を数枚テーブルに置いて走った。


「えーーーー!!!!なに?」
コウヘイがまたマイクで叫んでたけど
振り返る時間すら惜しかった。



こんな時に限って
バスが来ないっ!
TAXIもいないっ!
くっそーまじかっ。

輝くイルミネーションの中
走った。
景色が流れていく。
急く気持ちと高揚で気持ちがいい。
早く 早く もっと早く走りたい。



「せりっっ!!」

最近、電話でしか聞けなかった声が
携帯のフィルターを通さずクリアに澄み渡った。

車が通り過ぎて停まると
後部座席から
カジュアルな格好の銀丈くんが降りてきた。

人目もはばからず
脇目も振らず
人波を縫って走っていく。

飛びついたら
軽々と抱き上げてくれた。

「おかえりっ!」
「汗すごっ。そんな急いで俺に会いに?」
息が上がる私の背中を
ポンポンしながら笑う。
「そうだよ。早く会いたかったの」


「俺も」

この時
私は嬉しすぎて
銀丈くんが
どんな顔してるか
見てなかった。