恋の囚人番号251107都合いい女

「えぇ!?明日からシンガポール!?」

リビングにせりの声が響く。

11月も半ば
ずいぶん寒くなったっていうのに
相変わらず短パンから生っ白い脚を出して
プリンを食べている。

週末はいつも泊まっていたのに
最近仕事が立て込んで
会う時間も減っていた。

今日だって
夕方やっと会って
食事もそこそこに
慌ただしく抱いて
夜中の仕事に合わせて送っていく。

そんな隙間時間。

「出張どのくらい?お土産はゲロ吐くライオンかな」
「それマーライオンな。ゲロじゃねーし。」
忙しい中でも
嫌な顔1つせず、隣で笑う
呑気なせりがホッとさせてくれる。

早く卒業しねーかな、こいつ。
ずっと閉じ込めておきてーな。

⋯。


一瞬躊躇して一気に言った。

「椿が一緒なんだ」


せりの顔が強張った。
思った通りの反応。

そりゃそうだよな。



あれから、ずっと
せりが聞いてこないのをいいことに
俺も何も言わなかったから。

こんだけ一緒にいれば
言わなくてもわかんだろって
うやむやにしてたんだ。

でも黙って行くのも気が引けるし
もう言っても平気だって勝手に思ってた。


「そっかぁ〜。旅行?
良かったじゃん。お兄さんは平気?
まぁいっか。こんなチャンスないもんね!
うん。良かったじゃん。」

急に早口で
ヘッタクソに笑ってる。

「あ!私、本屋寄って帰るんだった!行かなきゃ。」

AVの大根女優だって
もうちょっとマシな演技だろってくらい
ド下手なセリフと振りで
素早くリビングを出てった。

あんなにはしゃいで食ってたプリン放って
本屋とか
っんなわけねーだろ。


「せり」
寝室に行くと
薄暗い部屋の中
ゆるいデニムに下着姿で背を向け立っていた。
「着替え中」
こっちも見ずに力なく答えた。

「聞けよ。急に明日ってなって⋯
この話なくなったと思ってて⋯」

言えば言うほど墓穴だ。
言い訳っぽくてクソダセェ。
全部言うか?
いや、心配かけたくねぇし⋯。

「こっち向けって」

細い手首を掴んでこっちを向いたせりは
瞳いっぱいに溜めた涙をこぼさないように
必死で奥歯を噛み締めていた。

あぁ⋯
またこの顔。
俺はこいつを泣かせるしかできないのかな。
情けねぇ。

力いっぱい手を振り払って
「私は平気。」
また背を向けた。

平気じゃねーだろ。



trrrrrrr....trrrrrrr.....

後ろポケットの携帯が鳴る。

っんだよ。くそ。

「なんだよ。あ?いるよ。だからなんだよ。…え?」
言い終わらないうちに玄関のチャイムが鳴った。


玄関を開けると



椿がいた。