恋の囚人番号251107都合いい女

「銀。親父んとこ顔出せ。俺も行く。」
アイツを返した後すぐ図ったように電話が鳴った。
全く、兄貴からの話は何時もロクな事がねぇな。

行かなくたって話はわかってる。
こないだの倉庫の件だ。

クソだりぃ。


ピンポン♪

インターホンが鳴る。
「俺〜開けて。トイレ貸して」
んだよ、ジンくん。
緊張感ねぇな。相変わらず。

程なくして、
咥え煙草で勝手知ったる家に入ってくると
本当に用を足し、勝手にコーヒーを淹れ始めた。

「何やってんだよ。」
「え?愛の住処を偵察ちゅ」
笑って冷蔵庫を、またもや勝手に開けた。

「うおっ。なんだこのプリンの量。
酒と水以外入ってんの初めて見た」
「アイツの」
「へぇぇぇぇ。アイツの…。ねぇ」
ニヤついて冷蔵庫を閉めると
カウンターに置いてある問題集を手に取った。
「高3参考書 英文?」
「だからっ!アイツのだって!」
「へぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。」
一層大きくわざとらしい声を上げからかう。

「漁んなって!もういいだろっ」
ったく。
ソファに座り煙草に火を付けると
我が家のようにコーヒー振る舞ってきた。
俺んちだっつーの。

ジンくんは、カウンターに座ると
煙草を灰皿に押しつけ
コーヒーを啜った。


「せりちゃんと続けんの?」
先程までのふざけた顔を忘れるくらいの真顔。
「だったらなんだよ」
「惚れたハレタで、ままごとやってけるほど
甘くねーんだぞ。」
「うるせぇな。説教垂れに来たのかよ」

「お前が危なっかしくて見てらんねぇんだよ。
時期考えろよ。」
「それ、アイツ関係ねーじゃん」
「あんだろ。
女1人の為にあんなキレ方…お前らしくねーよ」

「俺らしいってなんだよ。」
まじで、なんだそれ。

確かに、顔腫らして縛られてるアイツ見た瞬間
我を忘れたし
そんなん初めてだったけど。


「アイツが笑ってんとこに帰りてぇんだよ。
一生背負うって決めたんだ。口出しすんなよ」

自ら荷物になりたがるような
バカ真っ直ぐなアイツが目の前にいる限り
守ってやんなきゃって思ったんだ。

「まじか…。バカだなぁ」
ほんの少しだけ考え込むと、
ジンくんは諦めたようにため息ついた。
「足枷になんぞ。」
「上等だ」

迷いはない。
むしろ腹が決まったことで
すっきりしている。



「銀も大人になったなぁ〜兄ちゃん嬉しいよ」
笑って肩を叩くジンくんはいつものジンくんだった。
「兄貴じゃねーだろ」
「銀。守るもんがあると強くも弱くもなるからな。
間違えんなよ。」
「わかってるよ。行くぞ」

わかってる。
アイツの為にと思うことが
追い風にも向かい風にもなるってこと。
だけど、たとえ嵐になったって
アイツなら俺を笑かしてくれると思うんだ。

アイツを、抱いて眠れるなら
なんだってできる気がする。


カフスを留め支度をする俺に
ジンくんが棒をつまんで見せた。


「これ何?」
「エア縄跳び」
「え?」

「だからぁー!!俺んじゃねーよ」
爆笑するジンくんを見ながら
ピョコピョコ跳んでるアイツを思い出し
俺も笑った。

足枷・お荷物、上等だぜ。