後ろ手に縛られたおかげで肩が痛い。
足首に巻かれた結束バンドが食い込む。
「怪我してないって言ってた!!嘘つき」
「うるせぇなー」
「怪我してないって言ってた!!嘘つき」
「うるせぇっ!!」
「怪我してないって言ってた!!嘘つき」
「うるせぇっっっ!!!!!!!」
嘘を信じて"銀丈くんホイホイ"に
あっさり引っかかった自分の浅はかさに腹が立って、
苛立ちと悔しさをぶつけた。
助手席にいた男が立ち上がって
思い切り左頬を平手打ちした。
目から星ってよく言うけど
そんな物は見えなかった。
真っ白になって顔がジンジンするだけ。
痛い痛い痛い痛い痛い。
すっごい痛い。
でも涙は出ない。
肩で息して怒りを隠す。
銀丈くんきっと迷惑してる。
こんなん引っかかって怒ってるかも。
何日ぶりかに聞く声は
いつもより低くて沈んでいたけど
声を聞いただけで
ホッとしてる自分がいた。
ここがどこなのか
コイツラ誰なのか
何でここにいるのか
わかんないこといっぱいだけど
銀丈くんに会わせてよ。
時折、船舶の汽笛が聞こえる。
薄暗い小さな倉庫に安い蛍光灯がちらつく。
私を叩いたガラの悪い男
バンを運転してた金髪坊主の男
私の手を引っ張り車に乗せたヘビみたいに痩せた男
後ろに乗っていたレスラーみたいな男。
4人は談笑しながら私を上から下まで
ジットリと視線を貼り付けてくる。
値踏みされているようで不快だった。
「勇進、強く叩きすぎたろ。真っ赤じゃん」
ヘビ男がヌメッとした笑みを浮かべて
頬に触ろうとした。
首を傾けヘビ男を避けると、
反対の手で首をつかまれた。
カハッッ!
喉が締まって玉みたいな咳が出た。
「黙って触らせろよ。手間かけさすなって。」
苦しい…息が止まる。
眼球が熱い。
気が遠くなりそうになったとき
ドカッ!バキッ!
ヘビ男の細い首の向こうのドアが
大きな音を立てて蹴破られた。
ヘビ男が驚いて手を離しドアを振り返ると
視界がひらけて
私にも見えた。
「銀丈くんっ!」
呼んだ瞬間、ヘビ男が
強烈なアッパーカットで跳ね上がり転がった。
結束バンドをすぐ切ってもらい
自由になった腕で銀丈くんに抱きついた途端、
恋い焦がれた匂いが身体を巡ってきて
恐怖と安堵と震えで涙が出てきた。
「怪我は?」
銀丈くんは、優しくて、悲しくて、困った顔をして
顔を覗き込むと指で涙を拭ってくれた。
その時、ピクッとなったのは
赤く腫れた左頬と真新しい首の跡に
気がついたからかな。
すごく怖い顔になった。
「せり。ここ座って後ろ向いてろ。」
事務用の回転椅子に座らせ、
クルリと背中合わせにした。
「俺の女さらって、生きて出れると思うなよ」
地の底から聞こえるような銀丈くんの声は
さらに低く静かな憤怒の声色だった。
何かの金属を拾って引きずる音がした。
殴打する鈍い音が 何度も 何度もする。
耳を塞いでも聞こえる
男のうめき声と
銀丈くんの怒号。
ぶつかって壊れる家具の音
割れるガラスの音
倒れる人の音
悲痛な誰かの声
激しい暴行の音
止まらない暴力の音
見せないように座らされた椅子が
恐怖で震え、カタカタ揺れた。
カチャ
「てめぇか。班長さんは。
2度と電話でピーチク言えねぇようにしてやんからよ。」
「あえろっ!あえへうえっ!!はおむっ!」
何かを口に入れられたのか
ガラの悪い男の切羽詰まった声が懇願している。
「銀っっ!!!」
血相変えたジンくんが
蹴破られたドアから滑り込んできた。
そのすぐ後ろから
花火の日に見た
銀丈くんに似たお兄さんが入ってきた。
「銀。チャカしまえ。」
瞬時に周りを見渡してから
冷静に言い放つ声は
機嫌が悪い時の銀丈くんの声に少し似ていた。
チャカ??
拳銃!?
背中を緊張が走る。
私の後ろで何が起きてるの?
キ⋯キィーーーーっ
軋む回転椅子と一緒に
ゆっくりゆっくり振り返った。
血だらけで倒れる男が3人
天地がひっくり返ったように破損して飛散した品々
真っ赤な粘液を啜って曲がった鉄パイプ
ボロ雑巾の様に、
ソファで伸びてるガラの悪い男の襟首を掴んで
口の中に
銃口
を押し付けている…銀丈くん。
手はどす黒い血で染まり
汗とホコリと血にまみれた服と髪
銀丈くんの左胸に刻んだ獅子と同じ
牙を剥いて殺気丸出しの形相で
右手に握った引き金を引こうとしている瞬間だった。
これが、銀丈くんの隠したかった姿なんだ。
私に見せたくなかったのに
私のせいで
私のために
晒しちゃったんだね。
ごめんね…
ごめんね…
「銀丈くん」
私の声にハッとして
視線だけチラリと送った。
「一緒に帰ろ」
銀丈くんは答えずに
随分前に戦意喪失していたであろう男を
荒い息遣いで睨み続けている。
固唾をのんで見守るしかない中
歯を食いしばると大きく深呼吸して天を仰ぎ
再び安全装置をかけた。
静かに歩み寄ったお兄さんに拳銃を預けると
ため息をついて私を見た。
ゆっくり私の方へ歩いてくると
乱れた前髪の隙間から私を見下ろし
言葉を探している。
「エヘヘ。膝が笑っちゃって立てないの」
泣き笑いでぐちゃぐちゃの私を見て
ふっと安堵の笑みを浮かべると
何も言わず私を抱き上げた。
両腕を銀丈くんの首に回し
顔を埋めたら
恐怖も不安も苛立ちも消え
何もかもから守られている安心感に包まれた。
「ごめんね…ありがと⋯大好き」
銀丈くんは、何も答えず
一度も振り返らずに
私を抱え
その場を後にした。
足首に巻かれた結束バンドが食い込む。
「怪我してないって言ってた!!嘘つき」
「うるせぇなー」
「怪我してないって言ってた!!嘘つき」
「うるせぇっ!!」
「怪我してないって言ってた!!嘘つき」
「うるせぇっっっ!!!!!!!」
嘘を信じて"銀丈くんホイホイ"に
あっさり引っかかった自分の浅はかさに腹が立って、
苛立ちと悔しさをぶつけた。
助手席にいた男が立ち上がって
思い切り左頬を平手打ちした。
目から星ってよく言うけど
そんな物は見えなかった。
真っ白になって顔がジンジンするだけ。
痛い痛い痛い痛い痛い。
すっごい痛い。
でも涙は出ない。
肩で息して怒りを隠す。
銀丈くんきっと迷惑してる。
こんなん引っかかって怒ってるかも。
何日ぶりかに聞く声は
いつもより低くて沈んでいたけど
声を聞いただけで
ホッとしてる自分がいた。
ここがどこなのか
コイツラ誰なのか
何でここにいるのか
わかんないこといっぱいだけど
銀丈くんに会わせてよ。
時折、船舶の汽笛が聞こえる。
薄暗い小さな倉庫に安い蛍光灯がちらつく。
私を叩いたガラの悪い男
バンを運転してた金髪坊主の男
私の手を引っ張り車に乗せたヘビみたいに痩せた男
後ろに乗っていたレスラーみたいな男。
4人は談笑しながら私を上から下まで
ジットリと視線を貼り付けてくる。
値踏みされているようで不快だった。
「勇進、強く叩きすぎたろ。真っ赤じゃん」
ヘビ男がヌメッとした笑みを浮かべて
頬に触ろうとした。
首を傾けヘビ男を避けると、
反対の手で首をつかまれた。
カハッッ!
喉が締まって玉みたいな咳が出た。
「黙って触らせろよ。手間かけさすなって。」
苦しい…息が止まる。
眼球が熱い。
気が遠くなりそうになったとき
ドカッ!バキッ!
ヘビ男の細い首の向こうのドアが
大きな音を立てて蹴破られた。
ヘビ男が驚いて手を離しドアを振り返ると
視界がひらけて
私にも見えた。
「銀丈くんっ!」
呼んだ瞬間、ヘビ男が
強烈なアッパーカットで跳ね上がり転がった。
結束バンドをすぐ切ってもらい
自由になった腕で銀丈くんに抱きついた途端、
恋い焦がれた匂いが身体を巡ってきて
恐怖と安堵と震えで涙が出てきた。
「怪我は?」
銀丈くんは、優しくて、悲しくて、困った顔をして
顔を覗き込むと指で涙を拭ってくれた。
その時、ピクッとなったのは
赤く腫れた左頬と真新しい首の跡に
気がついたからかな。
すごく怖い顔になった。
「せり。ここ座って後ろ向いてろ。」
事務用の回転椅子に座らせ、
クルリと背中合わせにした。
「俺の女さらって、生きて出れると思うなよ」
地の底から聞こえるような銀丈くんの声は
さらに低く静かな憤怒の声色だった。
何かの金属を拾って引きずる音がした。
殴打する鈍い音が 何度も 何度もする。
耳を塞いでも聞こえる
男のうめき声と
銀丈くんの怒号。
ぶつかって壊れる家具の音
割れるガラスの音
倒れる人の音
悲痛な誰かの声
激しい暴行の音
止まらない暴力の音
見せないように座らされた椅子が
恐怖で震え、カタカタ揺れた。
カチャ
「てめぇか。班長さんは。
2度と電話でピーチク言えねぇようにしてやんからよ。」
「あえろっ!あえへうえっ!!はおむっ!」
何かを口に入れられたのか
ガラの悪い男の切羽詰まった声が懇願している。
「銀っっ!!!」
血相変えたジンくんが
蹴破られたドアから滑り込んできた。
そのすぐ後ろから
花火の日に見た
銀丈くんに似たお兄さんが入ってきた。
「銀。チャカしまえ。」
瞬時に周りを見渡してから
冷静に言い放つ声は
機嫌が悪い時の銀丈くんの声に少し似ていた。
チャカ??
拳銃!?
背中を緊張が走る。
私の後ろで何が起きてるの?
キ⋯キィーーーーっ
軋む回転椅子と一緒に
ゆっくりゆっくり振り返った。
血だらけで倒れる男が3人
天地がひっくり返ったように破損して飛散した品々
真っ赤な粘液を啜って曲がった鉄パイプ
ボロ雑巾の様に、
ソファで伸びてるガラの悪い男の襟首を掴んで
口の中に
銃口
を押し付けている…銀丈くん。
手はどす黒い血で染まり
汗とホコリと血にまみれた服と髪
銀丈くんの左胸に刻んだ獅子と同じ
牙を剥いて殺気丸出しの形相で
右手に握った引き金を引こうとしている瞬間だった。
これが、銀丈くんの隠したかった姿なんだ。
私に見せたくなかったのに
私のせいで
私のために
晒しちゃったんだね。
ごめんね…
ごめんね…
「銀丈くん」
私の声にハッとして
視線だけチラリと送った。
「一緒に帰ろ」
銀丈くんは答えずに
随分前に戦意喪失していたであろう男を
荒い息遣いで睨み続けている。
固唾をのんで見守るしかない中
歯を食いしばると大きく深呼吸して天を仰ぎ
再び安全装置をかけた。
静かに歩み寄ったお兄さんに拳銃を預けると
ため息をついて私を見た。
ゆっくり私の方へ歩いてくると
乱れた前髪の隙間から私を見下ろし
言葉を探している。
「エヘヘ。膝が笑っちゃって立てないの」
泣き笑いでぐちゃぐちゃの私を見て
ふっと安堵の笑みを浮かべると
何も言わず私を抱き上げた。
両腕を銀丈くんの首に回し
顔を埋めたら
恐怖も不安も苛立ちも消え
何もかもから守られている安心感に包まれた。
「ごめんね…ありがと⋯大好き」
銀丈くんは、何も答えず
一度も振り返らずに
私を抱え
その場を後にした。
