恋の囚人番号251107都合いい女

「まだ喧嘩中?」

放課後のマックでマリと安定の寄り道。
マリがポテトをつまみながら聞いてきた。

「彼女放置で、夜中に他の女のとこ行くとか。まじありえん。私もキレる。」
マリはいつも私より先に怒ってる。

「そもそも私、彼女じゃないし」
「はぁ?夏休みあんな一緒にいて今更」
マリが笑う。

彼女だなんて一度も言われてない。
好きだと言ってたけど
椿さんもいるし
なんなら夜中に会う女もいるし

夏休み四六時中暇してる女子高生は
呼べば尻尾振ってくるから
都合良かっただけなんじゃないかと思うと
気が滅入る。

本当は違うって信じたいけど
確かな言葉で不安を消したい。

私ばっか、好きなんだ⋯

でも、それでもいいって
私が言ったんだから仕方ない。

一緒にいられるなら
それだけでいいって
自分で決めた、のに。

自分から玄関のドアを閉めてしまったんだ。


何があったかは知らないけど

湿ったスーツで、
頬に怪我までして帰ってきた銀丈くんからは
甘ったるい香水の匂いがした。

女の人といたことは否定しなかった。


「ジンくんが、
銀が最近付き合い悪ぃ〜て嘆いてたもん。
せりはじゅーぶん本カノだよ。」
「そーいえば、
マリはジンくんと、どうなってんの?」
嫌なことばかり浮かんでくるから話題をそらした。

「えぇ?ジンくん?たまに遊ぶよ。
夏休みはせり全然遊んでくんなかったしね。」
マリはケラケラ笑うと、真顔になった。
「でも、ジンくんはないかな。」
「なんで?仲良いんでしょ?」
「ジンくん⋯100パー怖い兄さんじゃん。
ないわぁ」


私、こわばった顔はうまく隠せてるだろうか。
マリは多分合っている。


日々募る疑惑が、
マリの一言でまた一歩現実味を帯びた。
銀丈くんの周りに漂う危ない雰囲気は
なんとなく感じていた。



「せり。色々後悔しないようにね。」
マリの心配と優しさが伝わる。
「何があっても私はせりの味方だし、
せりはせりだよ」
「ん⋯。」

「だいじょーーーっぶだって!
守ってくれるよ。」
マリが笑い飛ばすから一緒に笑った。

銀丈くんが誰だろうと
一緒にいたい。

会いたいな。
ごめんねって⋯言おう。



マックを出る頃には、すっかり日が暮れて
街に明かりが灯り
夜の顔に変わろうとしている。
冷たい秋風が木々を揺らしていた。

ウィンドウショッピングをしながら
歩くには少し寒くて
制服のカーディガンが心細かった。


他愛もない話をしながら
街路樹をマリと歩いていると



1台の車が音もなく横に滑りついた。


黒塗りのバンの窓が降り、助手席から
ガラの悪い男が顔を出した。

「宮崎せりさん?」
声を掛けるのと同時に、
後部座席のスライドドアが開いた。

「銀丈さんが急用で呼んでるんで乗ってもらえる?」
2列目と3列目に1人ずつ知らない男が乗っている。


「銀丈くんが?」

何も聞いてない。
連絡もなかった。
ってか、誰?


「あ、銀丈くんに連絡してみるんで。」
なんか変だ。

「銀丈さん、今ケガして病院だから。」

心臓が跳ね上がる。
怪我?いつ?なんで?
頭がうまく回らない。
2列目にいた男が出てきて腕を引っ張った。
「早く」
痛い。
「あ、マリ先帰っ⋯っ」
言い終わらないうちにドアを閉められ
車はすぐに動き出した。