恋の囚人番号251107都合いい女

「その恰好じゃ連れ歩けねぇよなぁ。」
助手席に座る制服の私を見て
途方に暮れて苦笑いしていた。

確かに
危険臭漂う漆黒のスーツと女子高生
爽やかなお日様の下が似合うとは言い難かった。

人気のない埠頭の端に車を停めると
煙草に火をつけ窓の外に煙を吐いて
スタバのドライブスルーで買ったホットコーヒーに口をつけた。
沈黙の間を、リアーナの歌声が横切っていく。

何を言われるんだろう⋯。
怖い。
でも聞かなきゃ。
言わなくちゃ。


「私やっぱり無理だった!」
やば。声のボリュームがバグった。
落ち着け、私。深呼吸。

「椿さんの代わりは嫌だった」
改めて言葉にするとさらに凹む。

「…だから?やめんの?」
無機質な声に怖気づいたけど、言わなきゃ。

「違っ。やめたくないの。だから」
「なに?」
「同じにして」
「は?」
銀丈くんの不可解な表情に
自分でも何が言いたいのかカオスだったけど
もう、止まらない。

「椿さんの好きと同じくらい
私も好きになってほしい。」
「自分だけにしてって言わないの?」
「だって、人を好きになる気持ちは、
誰かに言われてなんとかなるもんじゃないじゃん!」
「漢前だな」
ムキになる私を笑って見てる。

「好きな人が、好きな人の好きな人と同じぐらい
私を好きだったら好きが....って、あれ?」
好きが多くてややこしっ。わけわからん。
「なんなん?お前」
混乱する私を見てまた笑う。
緊張がほどけて緩む。

「私ばっか好きで悔しい。
でも、会えないのはもっと嫌。」
「駄々こねんなよ」
必死になるほど支離滅裂な私を呆れて笑う。
銀丈くんは、何故かずっと笑顔だった。

「椿さんが一番好きなんでしょ?」
段々小さくなる声に、心臓がチクンと傷んだ。

「好きとも一番とも違うんだよなぁ」
のらりくらりな銀丈くんは、
面白がってるみたいだった。

人の気も知らないでっ。
「なにそれ。絶対王者?唯一無二?永久欠番?」
今度は、どんどん声が大きくなる。
完全に情緒崩壊。

「お前必死かっ。うるせぇよ。めんどくせーな」
デコピンして鼻を摘まれた。

「必死だよ。だって必死で好きなんだもん。」
コウヘイの言う通り
私はめんどくさい女らしい。
でも
まんざらじゃない顔ってこーゆー顔なのかな。
眉毛寄せて困ってるけど、
煙草を咥えた口元は笑ってる。


「お前と椿は別もん。
お前を抱いてて椿を想ったことねーんだ。」

銀丈くんは、煙草の煙を吐いて空を見上げると

「お前が、目の前の女なのかもなぁ。」
独り言みたいに呟いた。

「目の前の女?そうだけど?
いるじゃん、目の前に。」
キョトンとする私を横目で見て、
ため息をついてから
煙草を灰皿に押し付けると

「1回しか言わねぇかんな。」

決心したかのような
いつもより低い声で私を見つめた。



「お前が考えてるより、好きだから。」

「それって⋯!」
「もういい加減、黙れよ。」
長い腕で肩を抱き寄せ
問答無用で唇を塞いだ。

銀丈くんの香りが私を包む。