花火の日から何日もたち
夏は本番を迎えていた。
なんとなく
連絡をしないまま時が過ぎ
変わらない毎日が”当たり前”になる。
想いは変わらないけれど
行き場を失っていた。
身体だけ繋がって
他の女(ヒト)を想う現実を
目の当たりにしたら
愛しさと
苦しさが辛くて
自分の覚悟のなさにがっかりした。
私じゃない女(ヒト)を好きなのに
嫌いになれなくて
忘れられなくて
それでもいいって言いながら
全然よくなくて。
割り切れないから
会いたくても
会いたいって言えない。
「私って口ばっか…。」
ため息に隠れて、独り言が漏れた。
終業のチャイムはとっくに鳴り終わり
明日からは、夏休み。
申し訳程度の掃除をしながら、
生徒たちが散らばっている。
端に寄せた机に寄りかかり、
ホウキを持ったまま足元15cmを
私はかれこれずっと掃いている。
「銀丈くん、海外出張してるらしいよ?」
花火の日以来、
ジンくんと連絡を取るようになったらしいマリが
隣の机に腰掛け
そっと教えてくれた。
「ふ~ん。」
「今大きい仕事してて忙しいんだって!すごいよね」
「ふ~ん。」
「だから帰ってきたらすぐ会えるよ!大丈夫!」
「ふ~ん。」
一生懸命マリが元気づけようとしてるのがわかる。
でも
今はどうしていいかわかんなくて笑えない。
だって
銀丈くんは
私のことなんてこれっぽっちも思ってなくて
ヤるだけの都合いい関係。
それでもいいって思う気持ちと
そんなの嫌だっていう気持ちが
ぐちゃぐちゃになっていて
どうしていいかわからない。
バシッツ!!!!!!
急に後ろから頭を叩かれた。
後頭部を抑え、振り返ると
「おめ~。いい加減にしろよ。友達に気ぃ使わせんな」
呆れ顔のコウヘイが立っている。
購買の袋からアイスを2個取り出して手渡す。
無言で受け取り、
無言のまま3人でアイスを食べた。
「ゴメン。マリ」
ようやく口にできた。
「わかってるはずだったのに、
どうしていいかわかんなくて…。」
「せり~。こんなん、誰だってしんどいし悩むよ。」
八つ当たりされたのにマリは優しかった。
「そっかぁ?考えすぎじゃね?」
すでに食べ終えたアイスの棒を咥えながら
コウヘイが呑気な声を上げた。
「何がわかんだよっ」
マリが秒でキレてる。
「だって、せりってめんどくせぇじゃん。」
「はぁ?!コウヘイまじ空気読め。」
呑気に続けるコウヘイに、マリは容赦ない。
「いや、だからさぁ
キレたり泣いたり怒ったり
面倒くさい女なのに会うってことは、
あっちだってまんざらでもねーんじゃねぇの。
しかもさぁ⋯」
クラブで先に妬いたのはあっちだぜ。
と、続けて言いかけたけど
「コウヘイのくせに語るな」
マリが遮った。
「だって…。好きな人いるもん。
ヤるだけだもん。
どうせ、都合いいだけだもん。」
言ってて情けない。
悲しくなる。
「俺は、ヤるだけなら、
もっと都合よくて美味しい女がいい!!!」
「てめっ!くそコウヘイ」
胸を張って断言するコウヘイをマリが
すかさず細い脚で蹴った。
「だって、そうだろ。
わざわざJKと何度も会わなくても
物わかり良くていい女なら、
まわりにいっぱいいんだろ。」
「あ…。なるほど」
マリが急に溜飲を下げた。
「でもま。ガチのヤリチンクソ男かもしんねぇけど。
せりが、どうしたいかが1番だろ。」
「だって、わかんないんだもん。」
「必要か不要かだろ。」
必要か不要か⋯
「ねぇ!!!!!!!せりっ!!!!!!あれっ!!!!!」
窓の外を見ていたマリが
急に大声を出した。
正門の前に見覚えのある
大きな真っ黒い車が停まっている。
必要か不要か⋯?
簡単なことだった。
だってもう走り出してる。
私、いつも銀丈くんに向かって走ってるなぁ。
息を切らして階段を駆け下り
ただ ただ 走った。
横断歩道のない道路を
脇目も振らず飛び込んだら
豪快なクラクションが
けたたましく鳴ったけど
振り返らない。
他に何も見えなかったから。
運転席の窓が下がる。
オールバックに黒のスーツ
切れ長のつり目が真っ直ぐ私を見つめる。
「危ねぇなぁ。」
困ったような
照れたような
でも、ぶっきらぼうな
#Fの声に何度だって恋をする。
「何それ。」
息切れしながら
銀丈くんの声にハッとすると
右手に握り締めていたアイスの棒。
「当たりだよ」
銀丈くんの鼻先に突き出した。
ちょっと寄り目になって驚いた銀丈くんは
声を出して笑ってから
「お前やっぱ面白いな」
って目を細めて柔らかい表情をした。
すごく優しい顔だったから
窓から力いっぱい抱きついた。
「当たりの景品、お前?」
「返品不可です」
鼻先が触れ
互いの視線がぶつかると
唇が重なった。
必要か不要か…。なんて
愚問だった。
ホカニハ ナニモ イラナイ
夏は本番を迎えていた。
なんとなく
連絡をしないまま時が過ぎ
変わらない毎日が”当たり前”になる。
想いは変わらないけれど
行き場を失っていた。
身体だけ繋がって
他の女(ヒト)を想う現実を
目の当たりにしたら
愛しさと
苦しさが辛くて
自分の覚悟のなさにがっかりした。
私じゃない女(ヒト)を好きなのに
嫌いになれなくて
忘れられなくて
それでもいいって言いながら
全然よくなくて。
割り切れないから
会いたくても
会いたいって言えない。
「私って口ばっか…。」
ため息に隠れて、独り言が漏れた。
終業のチャイムはとっくに鳴り終わり
明日からは、夏休み。
申し訳程度の掃除をしながら、
生徒たちが散らばっている。
端に寄せた机に寄りかかり、
ホウキを持ったまま足元15cmを
私はかれこれずっと掃いている。
「銀丈くん、海外出張してるらしいよ?」
花火の日以来、
ジンくんと連絡を取るようになったらしいマリが
隣の机に腰掛け
そっと教えてくれた。
「ふ~ん。」
「今大きい仕事してて忙しいんだって!すごいよね」
「ふ~ん。」
「だから帰ってきたらすぐ会えるよ!大丈夫!」
「ふ~ん。」
一生懸命マリが元気づけようとしてるのがわかる。
でも
今はどうしていいかわかんなくて笑えない。
だって
銀丈くんは
私のことなんてこれっぽっちも思ってなくて
ヤるだけの都合いい関係。
それでもいいって思う気持ちと
そんなの嫌だっていう気持ちが
ぐちゃぐちゃになっていて
どうしていいかわからない。
バシッツ!!!!!!
急に後ろから頭を叩かれた。
後頭部を抑え、振り返ると
「おめ~。いい加減にしろよ。友達に気ぃ使わせんな」
呆れ顔のコウヘイが立っている。
購買の袋からアイスを2個取り出して手渡す。
無言で受け取り、
無言のまま3人でアイスを食べた。
「ゴメン。マリ」
ようやく口にできた。
「わかってるはずだったのに、
どうしていいかわかんなくて…。」
「せり~。こんなん、誰だってしんどいし悩むよ。」
八つ当たりされたのにマリは優しかった。
「そっかぁ?考えすぎじゃね?」
すでに食べ終えたアイスの棒を咥えながら
コウヘイが呑気な声を上げた。
「何がわかんだよっ」
マリが秒でキレてる。
「だって、せりってめんどくせぇじゃん。」
「はぁ?!コウヘイまじ空気読め。」
呑気に続けるコウヘイに、マリは容赦ない。
「いや、だからさぁ
キレたり泣いたり怒ったり
面倒くさい女なのに会うってことは、
あっちだってまんざらでもねーんじゃねぇの。
しかもさぁ⋯」
クラブで先に妬いたのはあっちだぜ。
と、続けて言いかけたけど
「コウヘイのくせに語るな」
マリが遮った。
「だって…。好きな人いるもん。
ヤるだけだもん。
どうせ、都合いいだけだもん。」
言ってて情けない。
悲しくなる。
「俺は、ヤるだけなら、
もっと都合よくて美味しい女がいい!!!」
「てめっ!くそコウヘイ」
胸を張って断言するコウヘイをマリが
すかさず細い脚で蹴った。
「だって、そうだろ。
わざわざJKと何度も会わなくても
物わかり良くていい女なら、
まわりにいっぱいいんだろ。」
「あ…。なるほど」
マリが急に溜飲を下げた。
「でもま。ガチのヤリチンクソ男かもしんねぇけど。
せりが、どうしたいかが1番だろ。」
「だって、わかんないんだもん。」
「必要か不要かだろ。」
必要か不要か⋯
「ねぇ!!!!!!!せりっ!!!!!!あれっ!!!!!」
窓の外を見ていたマリが
急に大声を出した。
正門の前に見覚えのある
大きな真っ黒い車が停まっている。
必要か不要か⋯?
簡単なことだった。
だってもう走り出してる。
私、いつも銀丈くんに向かって走ってるなぁ。
息を切らして階段を駆け下り
ただ ただ 走った。
横断歩道のない道路を
脇目も振らず飛び込んだら
豪快なクラクションが
けたたましく鳴ったけど
振り返らない。
他に何も見えなかったから。
運転席の窓が下がる。
オールバックに黒のスーツ
切れ長のつり目が真っ直ぐ私を見つめる。
「危ねぇなぁ。」
困ったような
照れたような
でも、ぶっきらぼうな
#Fの声に何度だって恋をする。
「何それ。」
息切れしながら
銀丈くんの声にハッとすると
右手に握り締めていたアイスの棒。
「当たりだよ」
銀丈くんの鼻先に突き出した。
ちょっと寄り目になって驚いた銀丈くんは
声を出して笑ってから
「お前やっぱ面白いな」
って目を細めて柔らかい表情をした。
すごく優しい顔だったから
窓から力いっぱい抱きついた。
「当たりの景品、お前?」
「返品不可です」
鼻先が触れ
互いの視線がぶつかると
唇が重なった。
必要か不要か…。なんて
愚問だった。
ホカニハ ナニモ イラナイ
