恋の囚人番号251107都合いい女

「お、そろそろ花火じゃね?」
ジンくんが時計を見る。
マリが覗き込む。
2人で見合わせ笑っている。
あれ?いい雰囲気。

⋯っクシュンッ
真夏にはまだ早い夜風が、首筋を吹き抜け
手足が冷たくなった。

「あっちで見るか」
ソファに深く体を預けて座っていた銀丈くんは、
立ち上がってグラスに揺れる琥珀色のアルコールを飲み干すと、
私の手を引いた。

ザブンッ

先にジャグジーの段差を降りると、
馬車から降りるお姫様にするように、
エスコートして私を導いた。
ゴボゴボと音を立て下から水流が上がり、
水面が揺れる。

銀丈くんは、ジャグジーの壁に背を向け座ると
両足の間に私を座らせ、
後ろから包み込んだ。
体温が生温いお湯に溶け出してゆく。

「特等席だね」
銀丈くんの膝を優しく抱きしめるように手を伸ばし、
もたれかかって、
鎖骨に頭を預けた。
銀丈くんは、
私の頭に頬を寄せ空を見上げた。

程なくして

風がピタリと止んだ瞬間

大輪の花が
乾いた爆発音とともに夜空を飾った。

屋上からも歓声が上がったけれど
私達は何も言わず見上げていた。

どれくらいの時間をこうしていただろう。
同じ空の下 
同じ行方を2人で見つめていた。

なんて素敵な夜だろう。

「ありがと」
自然とこぼれた。
「なに?」
銀丈くんが、視線だけを向けて聞く。
「めっちゃ幸せ」
少し振り返って顔を上げると
鼻が銀丈くんの顔に触れた。
「ちっせぇ幸せだな」
大好きな#Fの声が耳元で聞こえると、
そのまま唇を塞がれた。


目を閉じる瞬間、視線の端っこで
階段に人影が現れた。


急に、ジンくんが、
今まで聞いたことない声を張った。

「お疲れ様です!」

数人の緊張した声が続く。
見向きもせず歩いてくるその人は
モデルのように長身で、
短髪に眼鏡をかけ漆黒のスーツを着ていた。
目を引く美形で、
歳を重ねた銀丈くんを容易に想像できる顔つきだった。

銀丈くんが、急に立ち上がった。
驚いて見上げる私は
銀丈くんの視界に入っていない。

視線は、
その男の人を飛び越え
まっすぐ見つめて捉えると


「椿」

愛しそうに名を呼んだ。


あんな声聞いたことない。
あんな顔見たことない。

聞きたくなかった。
見たくなかった。

銀丈くんの全てが
銀丈くんによく似た男性の後ろから来た
日本人形のような儚い女の人に注がれていた。



初めての夜聞かされた

好きな女いるから⋯


ラスボスはこの人だ。