不夜城と揶揄される巨大な立方体jo`sは、
埠頭が立ち並ぶ高架下近くにあった。
夜は真っ黒な海を背に
光と音が飛び交っているのに
太陽にさらされていると
異彩を放ち沈黙を保っている。
真夜中の醜態を晒したあの夜から1週間。
「15時。裏の階段から屋上へ」
業務伝達のようなLINEの招待状を頼りに、
マリを連れて暑い日差しの中、
大きな紙袋を抱えて階段を登る。
あの夜、
紙袋を抱えてフロアに戻ると
マリとコウヘイが待っていた。
一部始終を見終えて
「どえらい奴に喧嘩売ったなぁ」
コウヘイは、呆れていたけど
かいつまんで話していくうちに
マリは何故か
自分のことようにはしゃいでった。
「でも仲直りでしょ?
そのBBQ私も行くっ!
絶対イケメン祭りじゃん」
「お前なぁ〜」
コウヘイはうんざりしながら、
ふと疑問が湧いた。
あれ?じゃぁ、先に妬いたのはあっちじゃねぇの?
好きな女いるのに?
う〜ん。ややこしいな。
コウヘイは、
紙袋を大事そうに抱える今夜のヒロインを横目に、
知らんぷりを決め込むことにした。
業務伝達が来たのは、BBQの前日だった。
その間、一切連絡はなくて
少しずつ不安は募ったけれど、
待ちに待ったLINEが一蹴してくれた。
私って、こーゆとこチョロいよなぁ⋯
「こんなとこに階段あったんだね〜」
マリが息を切らせながら言う。
私も知らなかった。
夜しか来ないし、
正面からしか入らないから
知らなくて当然なのだけれど。
階段を登りきると、空が広がった。
埠頭からの風が気持ち良い。
「うわぁお!!」
マリと同時に嬉々とした声を上げる。
海外ドラマさながらのBBQグリルが3台。
バーカウンターと大きなガゼボ。
そら豆の形をしたプールとジャグジー。
河原でやるような庶民的はBBQとは桁違いの⋯
立派なパーティ会場だった。
既に奥にある三角屋根の大きなテントから
際どい水着の女の子達が出てくると
浮き輪を浮かべてはしゃぎはじめた。
プールサイドのデッキチェアで
飲んでいる男の人達もいる。
バーカウンターからもはしゃぐ男女の姿が見えた。
まさに、陽キャなパリピ生息地帯。
木陰のガゼボから長身の人影が動いた。
濃紺の半袖パーカーを羽織ったサングラスの銀丈くんが
グラスを片手にゆっくりと歩いてきた。
「おう。あっち、着替え。」
紙袋を渡すと、
指先が触れた。
それだけで体温が上がる気がする⋯のは私だけ。
「すごいね〜。」
マリは、さっそくはしゃいでいる。
テントの中はポータブルエアコンが付いていて、
とても快適だった。
フワフワの毛足の長いラグ
猫足のソファ
繊細なガラス細工のランプ。
エキゾチックなテントは
ゴージャスなグランピング気分を味わえた。
マリは、ピンクの豹柄ビキニにさっさと着替えて急かす。
私はシンプルな黒い三角ビキニに着替えて
背中を結んでもらった。
あの日、銀丈くんがつけた薔薇色のキスマークは、
もう消えていた。
着替えを済ませると、
ガゼボから手招きされた。
「おぉ~!来たな。お騒がせギャル」
ジンくんが、茶化す。
今日は、髪を結んでいなかった。
改めて見ると、女の子みたいな綺麗な顔だち。
銀丈くんとは真逆のタイプだけど
顔面偏差値がひじょーに高い。
「せりです。こないだはごめんなさい」
慌ててペコリと謝った。
あの場にいた人も、いなかった人も、
「天罰だろ」
「見たかった〜」
「すげー顔してたよ。二人とも」
などと囃し立てたが面白話にされていた。
バツが悪い気持ちで、銀丈くんを見ると
目が合って笑っていた。
涼しい流し目で余裕しゃくしゃくな笑顔を向けられ
のぼせそうになる私は
やっぱりチョロい女だ。
開放的な空と、異空間と、お酒と音楽
それから
銀丈くんが子どもみたいに笑って話すから
あっという間に周りとも打ち解けて、
乾杯して盛り上がった。
電話が鳴り、銀丈くんが出ると少し空気が変わった。
ジンくんは、銀丈くんに目配せされると、
周りに声をかけ人払いした。
「お肉焼けるまでプールで遊んどいで」
私達は、小さい親戚の子みたいに扱われた。
銀丈くんの顔つきが変わった気がしたけど
気のせいかなって思って、プールに浸かった。
マリと浮き輪に座って手足を出す。
アルコールで火照った身体が
ひんやりして気持ち良かったから、
懸念はすぐ忘れちゃってた。
ただ呑気に
マリと
「超楽しいね」
と、何度も言い合ってた。
「でもさ〜」
マリが周りを見渡す。
うん。言いたいこと分かる。
「みんな墨入ってるね。」
そうなのだ。
タトゥーは特に珍しくない。
私も、洋楽のPVを観てると、
ちょっとだけ入れてみたいと思うときもある。
でも、ここにいる男の人達の中には、
ガッツリな和彫が、あちこちなんだよな⋯
銀丈くんはトライバルの獅子だけど
肩周りから胸にかけてかなり大々的に入っているし、
ジンくんはチャラ男ロン毛の風貌なのに、
背中に掘ってあるのはイカツイ龍だった。
BBQグリルで、給仕をしてくれている男の人達も皆、
Tシャツを着ているけれど肘や手首まで、
タトゥーとは呼べない入れ墨が見えている。
"カタギじゃない"人達なのかもって
なんとなく思っていた違和感が
確信に近づいていく。
でも、もう遅いよ。
銀丈くんが、どこの誰だっていい。
もっと一緒にいたい。
ずっと一緒にいたい。
会うたびに思うし
会ってない時も思ってる。
「水分補給しよ」
まだ怖い顔で電話をしている銀丈くんを見て、
また胸騒ぎがしたけど
どーにもなんないから、
気分転換にバーカウンターに向かった。
「いいね。映えるお酒飲も。」
マリは、
パイナップルと傘が刺さったブルーのフローズンカクテルに喜んでいた。
私はコロナに刺さったライムを
指で押し込み逆さにすると、
勢い余って泡が吹き出し慌てて口をつけた。
「超楽しいね」
本日何度目かの言葉を二人で口にして笑ったとき
「一緒に飲も〜」
明るく爽やかなナンパにあった。
ガゼボにもいなかった男の人2人。
銀丈くんより背が低いけど、
なんとかって言うアイドルに似てると思った。
そういえば、プールに入ったとき
ずっと近くのプールサイドにいたかもなぁ。
「アハハ!かんぱーい。マリでーす。」
マリが快くグラスを傾けた。
げ。マリ。
ここではやめてー。
心の大絶叫は酔ったマリには届かない。
「なにちゃん?乾杯しよーぜー」
苦笑いで突っ立ってたら、
アイドル似に煽られた。
どうしよ⋯。めんどくさ。
「ぅう〜ん⋯」
曖昧にしていると
不意に後ろから
腕がニョキッと頬をかすめ
首に巻きついた。
「コレ、俺んだから」
いつもより低くて威圧感のある声。
空気に亀裂が入る。
すいません!!!
と、慌てて頭を下げてアイドル似の2人は
蜘蛛の子散らすように去ってった。
はやっ。
「あ、そか。」
マリがハッとしてテヘペロしてる。
もぉっ!この酔っ払いがっ。
振り返らなくても匂いでわかるよ。
水に濡れ少し冷えた背中に、
銀丈くんの体温が直に伝わる。
「お前さ〜。」
ヘッドロックしてる反対の手で、
ぺちっと頭を叩かれた。
とっても軽く。とっても優しく。
「私なんにもしてないもん。」
濡れ衣に抗議したくて、
ようやく振り返り見上げる。
少しつり目の目を細めて笑う銀丈くんは
「知ってる。」
そう言って、私を軽々抱き上げると
「でもお仕置きな。」
プールに
ぶん投げた!!!!
バッシャーーーン
キャァァァァァーーーーッ!
派手な水しぶきを上げ、コロナの瓶を抱えたまま落ちた。
「ちょっとー!!!!!!!!!!!!!」
豪快に沈んで、
せっかくのお団子ヘアもぐちゃぐちゃのビショビショ。
銀丈くんは、大笑いして、
パーカーを脱ぎ捨てると勢いよく飛んできた。
派手な水しぶき上げて、すぐ近くまで来ると、
私を抱き上げ、
まっすぐ見つめた。
「なんで俺、お前ばっか見てなきゃなんねぇの?」
「それは、私を好きだからですかね。」
「バーカ」
銀丈くんは私の腰に。
私は銀丈くんの首に。
互いに両腕を回す。
恥ずかしくて
嬉しくて
心臓がどうにかなりそうだった。
このまま世界が終わったらいいのに。
「ピピピー!はい、そこまで。」
「お肉焼けましたよ」
マリとジンくんがいつの間にか阿吽の呼吸で、
プールサイドに並んで立っている。
同じように腕を組み仁王立ちだったから、
可笑しくて二人でまた笑った。
「これ着とけ。ばーか」
脱ぎ捨てたパーカーを拾うと、
私に投げてよこした。
「濡れちゃうよ」
羽織ってみたものの、
水着から滴る水で
みるみるパーカーの紺色が濃紺に変わっていく。
「いーんだよ」
律儀に上までチャックを閉め、フードまで被せた。
「てるてる坊主じゃん」
ぶかぶかのパーカーがひらひら揺れる。
「確かに」
笑って銀丈くんは
「見せて歩いてんじゃねーよ。このクソ坊主が。」
と、小さな声で呟いてぶっきらぼうに肩を組んだ。
「銀丈くん」
「あ?」
「私は、銀丈くんのものなんだね」
鼻で笑って横を向いた。
「腹減ったっ。肉食おーぜー」
大きな声でガゼボに声を掛け、
それから中でまた盛り上がった。
好き 好き 大好き
私の世界は銀丈くん一色になった。
ずっと、ここに留まりたかった。
埠頭が立ち並ぶ高架下近くにあった。
夜は真っ黒な海を背に
光と音が飛び交っているのに
太陽にさらされていると
異彩を放ち沈黙を保っている。
真夜中の醜態を晒したあの夜から1週間。
「15時。裏の階段から屋上へ」
業務伝達のようなLINEの招待状を頼りに、
マリを連れて暑い日差しの中、
大きな紙袋を抱えて階段を登る。
あの夜、
紙袋を抱えてフロアに戻ると
マリとコウヘイが待っていた。
一部始終を見終えて
「どえらい奴に喧嘩売ったなぁ」
コウヘイは、呆れていたけど
かいつまんで話していくうちに
マリは何故か
自分のことようにはしゃいでった。
「でも仲直りでしょ?
そのBBQ私も行くっ!
絶対イケメン祭りじゃん」
「お前なぁ〜」
コウヘイはうんざりしながら、
ふと疑問が湧いた。
あれ?じゃぁ、先に妬いたのはあっちじゃねぇの?
好きな女いるのに?
う〜ん。ややこしいな。
コウヘイは、
紙袋を大事そうに抱える今夜のヒロインを横目に、
知らんぷりを決め込むことにした。
業務伝達が来たのは、BBQの前日だった。
その間、一切連絡はなくて
少しずつ不安は募ったけれど、
待ちに待ったLINEが一蹴してくれた。
私って、こーゆとこチョロいよなぁ⋯
「こんなとこに階段あったんだね〜」
マリが息を切らせながら言う。
私も知らなかった。
夜しか来ないし、
正面からしか入らないから
知らなくて当然なのだけれど。
階段を登りきると、空が広がった。
埠頭からの風が気持ち良い。
「うわぁお!!」
マリと同時に嬉々とした声を上げる。
海外ドラマさながらのBBQグリルが3台。
バーカウンターと大きなガゼボ。
そら豆の形をしたプールとジャグジー。
河原でやるような庶民的はBBQとは桁違いの⋯
立派なパーティ会場だった。
既に奥にある三角屋根の大きなテントから
際どい水着の女の子達が出てくると
浮き輪を浮かべてはしゃぎはじめた。
プールサイドのデッキチェアで
飲んでいる男の人達もいる。
バーカウンターからもはしゃぐ男女の姿が見えた。
まさに、陽キャなパリピ生息地帯。
木陰のガゼボから長身の人影が動いた。
濃紺の半袖パーカーを羽織ったサングラスの銀丈くんが
グラスを片手にゆっくりと歩いてきた。
「おう。あっち、着替え。」
紙袋を渡すと、
指先が触れた。
それだけで体温が上がる気がする⋯のは私だけ。
「すごいね〜。」
マリは、さっそくはしゃいでいる。
テントの中はポータブルエアコンが付いていて、
とても快適だった。
フワフワの毛足の長いラグ
猫足のソファ
繊細なガラス細工のランプ。
エキゾチックなテントは
ゴージャスなグランピング気分を味わえた。
マリは、ピンクの豹柄ビキニにさっさと着替えて急かす。
私はシンプルな黒い三角ビキニに着替えて
背中を結んでもらった。
あの日、銀丈くんがつけた薔薇色のキスマークは、
もう消えていた。
着替えを済ませると、
ガゼボから手招きされた。
「おぉ~!来たな。お騒がせギャル」
ジンくんが、茶化す。
今日は、髪を結んでいなかった。
改めて見ると、女の子みたいな綺麗な顔だち。
銀丈くんとは真逆のタイプだけど
顔面偏差値がひじょーに高い。
「せりです。こないだはごめんなさい」
慌ててペコリと謝った。
あの場にいた人も、いなかった人も、
「天罰だろ」
「見たかった〜」
「すげー顔してたよ。二人とも」
などと囃し立てたが面白話にされていた。
バツが悪い気持ちで、銀丈くんを見ると
目が合って笑っていた。
涼しい流し目で余裕しゃくしゃくな笑顔を向けられ
のぼせそうになる私は
やっぱりチョロい女だ。
開放的な空と、異空間と、お酒と音楽
それから
銀丈くんが子どもみたいに笑って話すから
あっという間に周りとも打ち解けて、
乾杯して盛り上がった。
電話が鳴り、銀丈くんが出ると少し空気が変わった。
ジンくんは、銀丈くんに目配せされると、
周りに声をかけ人払いした。
「お肉焼けるまでプールで遊んどいで」
私達は、小さい親戚の子みたいに扱われた。
銀丈くんの顔つきが変わった気がしたけど
気のせいかなって思って、プールに浸かった。
マリと浮き輪に座って手足を出す。
アルコールで火照った身体が
ひんやりして気持ち良かったから、
懸念はすぐ忘れちゃってた。
ただ呑気に
マリと
「超楽しいね」
と、何度も言い合ってた。
「でもさ〜」
マリが周りを見渡す。
うん。言いたいこと分かる。
「みんな墨入ってるね。」
そうなのだ。
タトゥーは特に珍しくない。
私も、洋楽のPVを観てると、
ちょっとだけ入れてみたいと思うときもある。
でも、ここにいる男の人達の中には、
ガッツリな和彫が、あちこちなんだよな⋯
銀丈くんはトライバルの獅子だけど
肩周りから胸にかけてかなり大々的に入っているし、
ジンくんはチャラ男ロン毛の風貌なのに、
背中に掘ってあるのはイカツイ龍だった。
BBQグリルで、給仕をしてくれている男の人達も皆、
Tシャツを着ているけれど肘や手首まで、
タトゥーとは呼べない入れ墨が見えている。
"カタギじゃない"人達なのかもって
なんとなく思っていた違和感が
確信に近づいていく。
でも、もう遅いよ。
銀丈くんが、どこの誰だっていい。
もっと一緒にいたい。
ずっと一緒にいたい。
会うたびに思うし
会ってない時も思ってる。
「水分補給しよ」
まだ怖い顔で電話をしている銀丈くんを見て、
また胸騒ぎがしたけど
どーにもなんないから、
気分転換にバーカウンターに向かった。
「いいね。映えるお酒飲も。」
マリは、
パイナップルと傘が刺さったブルーのフローズンカクテルに喜んでいた。
私はコロナに刺さったライムを
指で押し込み逆さにすると、
勢い余って泡が吹き出し慌てて口をつけた。
「超楽しいね」
本日何度目かの言葉を二人で口にして笑ったとき
「一緒に飲も〜」
明るく爽やかなナンパにあった。
ガゼボにもいなかった男の人2人。
銀丈くんより背が低いけど、
なんとかって言うアイドルに似てると思った。
そういえば、プールに入ったとき
ずっと近くのプールサイドにいたかもなぁ。
「アハハ!かんぱーい。マリでーす。」
マリが快くグラスを傾けた。
げ。マリ。
ここではやめてー。
心の大絶叫は酔ったマリには届かない。
「なにちゃん?乾杯しよーぜー」
苦笑いで突っ立ってたら、
アイドル似に煽られた。
どうしよ⋯。めんどくさ。
「ぅう〜ん⋯」
曖昧にしていると
不意に後ろから
腕がニョキッと頬をかすめ
首に巻きついた。
「コレ、俺んだから」
いつもより低くて威圧感のある声。
空気に亀裂が入る。
すいません!!!
と、慌てて頭を下げてアイドル似の2人は
蜘蛛の子散らすように去ってった。
はやっ。
「あ、そか。」
マリがハッとしてテヘペロしてる。
もぉっ!この酔っ払いがっ。
振り返らなくても匂いでわかるよ。
水に濡れ少し冷えた背中に、
銀丈くんの体温が直に伝わる。
「お前さ〜。」
ヘッドロックしてる反対の手で、
ぺちっと頭を叩かれた。
とっても軽く。とっても優しく。
「私なんにもしてないもん。」
濡れ衣に抗議したくて、
ようやく振り返り見上げる。
少しつり目の目を細めて笑う銀丈くんは
「知ってる。」
そう言って、私を軽々抱き上げると
「でもお仕置きな。」
プールに
ぶん投げた!!!!
バッシャーーーン
キャァァァァァーーーーッ!
派手な水しぶきを上げ、コロナの瓶を抱えたまま落ちた。
「ちょっとー!!!!!!!!!!!!!」
豪快に沈んで、
せっかくのお団子ヘアもぐちゃぐちゃのビショビショ。
銀丈くんは、大笑いして、
パーカーを脱ぎ捨てると勢いよく飛んできた。
派手な水しぶき上げて、すぐ近くまで来ると、
私を抱き上げ、
まっすぐ見つめた。
「なんで俺、お前ばっか見てなきゃなんねぇの?」
「それは、私を好きだからですかね。」
「バーカ」
銀丈くんは私の腰に。
私は銀丈くんの首に。
互いに両腕を回す。
恥ずかしくて
嬉しくて
心臓がどうにかなりそうだった。
このまま世界が終わったらいいのに。
「ピピピー!はい、そこまで。」
「お肉焼けましたよ」
マリとジンくんがいつの間にか阿吽の呼吸で、
プールサイドに並んで立っている。
同じように腕を組み仁王立ちだったから、
可笑しくて二人でまた笑った。
「これ着とけ。ばーか」
脱ぎ捨てたパーカーを拾うと、
私に投げてよこした。
「濡れちゃうよ」
羽織ってみたものの、
水着から滴る水で
みるみるパーカーの紺色が濃紺に変わっていく。
「いーんだよ」
律儀に上までチャックを閉め、フードまで被せた。
「てるてる坊主じゃん」
ぶかぶかのパーカーがひらひら揺れる。
「確かに」
笑って銀丈くんは
「見せて歩いてんじゃねーよ。このクソ坊主が。」
と、小さな声で呟いてぶっきらぼうに肩を組んだ。
「銀丈くん」
「あ?」
「私は、銀丈くんのものなんだね」
鼻で笑って横を向いた。
「腹減ったっ。肉食おーぜー」
大きな声でガゼボに声を掛け、
それから中でまた盛り上がった。
好き 好き 大好き
私の世界は銀丈くん一色になった。
ずっと、ここに留まりたかった。
